【相続・贈与についてポイント解説】令和5年度 税制改正大綱が発表されました

令和5年度 改正点概要

 令和4年12月23日に令和5年度 税制改正大綱が発表されました。

 改正点概要は、以下のようになっております。

 

個人所得課税

○ NISA制度の抜本的拡充・恒久化
・非課税保有期間を無期限化するとともに、口座開設可能期間については期限を設けず、NISA制度を恒久的な措置とする。
・一定の投資信託を対象とする長期・積立・分散投資の年間投資上限額(「つみたて投資枠」)については、120 万円に拡充する。
・上場株式への投資が可能な現行の一般NISAの役割を引き継ぐ「成長投資枠」を設けることとし、「成長投資枠」の年間投資上限額については、240 万円に拡
充するとともに、「つみたて投資枠」との併用を可能とする。
・一生涯にわたる非課税限度額を新たに設定した上で、1,800 万円とし、「成長投資枠」については、その内数として 1,200 万円とする。
・以上の措置は、令和6年1月から適用する。
○ スタートアップへの再投資に係る非課税措置の創設
・保有株式の譲渡益を元手に、創業者が創業した場合やエンジェル投資家がプレシード・シード期のスタートアップへの再投資を行った場合に、再投資分につき
20 億円を上限として株式譲渡益に課税しない制度を創設する。
・スタートアップへの再投資に係る非課税措置及び課税繰延べについては、創業者は事業実態が認められれば適用が受けられるようにするほか、プレシード・シ
ード期のスタートアップに係る外部資本要件を 1/6 以上から 1/20 以上に引き下げるなど、要件の緩和を行う。
○ 極めて高い水準の所得に対する負担の適正化
・その年分の基準所得金額から3億 3,000 万円を控除した金額に 22.5%の税率を乗じた金額が、その年分の基準所得税額を超える場合には、その超える金額に
相当する所得税を課する措置を講じ、令和7年分以後の所得税について適用する。
○ 特定非常災害に係る損失の繰越控除の見直し
・特定非常災害法上の特定非常災害による損失に係る雑損失及び純損失の繰越期間について、損失の程度や記帳水準に応じ、例外的に3年から5年に延長する。


資産課税

○ 資産移転の時期の選択により中立的な税制の構築等
・相続時精算課税制度について、相続時精算課税適用者が特定贈与者から贈与により取得した財産に係るその年分の贈与税については、現行の基礎控除とは別
途、課税価格から基礎控除 110 万円を控除できることとするほか、相続時精算課税で受贈した土地・建物が災害により一定以上の被害を受けた場合、相続時に
その課税価格を再計算する見直しを行う。
・暦年課税における相続前贈与の加算期間を7年に延長するほか、延長した期間(4年間)に受けた贈与のうち一定額(100 万円)については、相続財産に加算
しないこととする見直しを行う。
・教育資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置については、節税的な利用につながらないよう所要の見直しを行った上で、適用期限を3年延長する。
・結婚・子育て資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置についても、節税的な利用につながらないよう所要の見直しを行った上で、適用期限を2年延長する。


法人課税

○ 研究開発税制の見直し
・控除率カーブの見直し及び控除率の下限の引下げ(現行:2%→1%)を行うとともに、試験研究費の増減割合に応じて税額控除の上限を変動させる制度(現
行:25%→20%~30%)を設ける。
・試験研究費のうち新たなサービスの開発に係る一定の費用について、既に有する大量の情報を用いる場合についても対象とするほか、所要の見直しを行う。
○ 企業による先導的人材投資に係る税制措置
・法人が大学、高等専門学校又は一定の専門学校を設置する学校法人の設立を目的とする法人に対して支出する寄附金であって、その設立のための費用に充て
られるものを指定寄附金とする。
・特別試験研究費の対象費用に、博士号取得者又は一定の研究業務の経験を有する者に対する人件費を追加し、税額控除率を 20%とする。
○ オープンイノベーション促進税制の見直し
・発行法人以外の者から購入により取得した株式でその取得により総株主の議決権の過半数を有することとなるものを、税制の対象となる特定株式に加える。


消費課税

○ 適格請求書等保存方式の円滑な実施に向けた所要の措置
・これまで免税事業者であった者がインボイス発行事業者になった場合の納税額を売上税額の2割に軽減する3年間の負担軽減措置を講ずる。
・一定規模以下の事業者の行う少額の取引につき、帳簿のみで仕入税額控除を可能とする6年間の事務負担軽減策を講ずるほか、少額の返還インボイスについ
て交付義務を免除する措置を講ずる。
○ 承認酒類製造者に対する酒税の税率の特例措置の創設
・酒税の保全のために酒類業の健全な発達に資する取組を適正かつ確実に行うことについて承認を受けた酒類製造者に係る一定の酒類について、製造規模に応
じて酒税を軽減する措置を講ずる。あわせて、現行の酒税の特例措置は廃止し、新たな特例措置への移行に伴う激変緩和のための経過措置を講ずる。
○ 車体課税
・自動車重量税のエコカー減税について、異例の措置として現行制度を令和5年末まで据え置くほか、据置期間後は、制度の対象となる 2030 基準達成度の下限
を3年間で段階的に 80%まで引き上げる等の所要の措置を講ずる。
・自動車税・軽自動車税の環境性能割について、異例の措置として現行の税率区分を令和5年末まで据え置くとともに、3年間で段階的に引き上げる。
・自動車税・軽自動車税の種別割におけるグリーン化特例について、3年間延長する。
・メーカーの不正行為によって自動車税環境性能割等の納付不足額が発生した場合の特例について、納付不足額を徴収する際に加算する割合(現行:10%)を
35%に引き上げる。


消費課税

○ 適格請求書等保存方式の円滑な実施に向けた所要の措置
・これまで免税事業者であった者がインボイス発行事業者になった場合の納税額を売上税額の2割に軽減する3年間の負担軽減措置を講ずる。
・一定規模以下の事業者の行う少額の取引につき、帳簿のみで仕入税額控除を可能とする6年間の事務負担軽減策を講ずるほか、少額の返還インボイスについ
て交付義務を免除する措置を講ずる。
○ 承認酒類製造者に対する酒税の税率の特例措置の創設
・酒税の保全のために酒類業の健全な発達に資する取組を適正かつ確実に行うことについて承認を受けた酒類製造者に係る一定の酒類について、製造規模に応
じて酒税を軽減する措置を講ずる。あわせて、現行の酒税の特例措置は廃止し、新たな特例措置への移行に伴う激変緩和のための経過措置を講ずる。
○ 車体課税
・自動車重量税のエコカー減税について、異例の措置として現行制度を令和5年末まで据え置くほか、据置期間後は、制度の対象となる 2030 基準達成度の下限
を3年間で段階的に 80%まで引き上げる等の所要の措置を講ずる。
・自動車税・軽自動車税の環境性能割について、異例の措置として現行の税率区分を令和5年末まで据え置くとともに、3年間で段階的に引き上げる。
・自動車税・軽自動車税の種別割におけるグリーン化特例について、3年間延長する。
・メーカーの不正行為によって自動車税環境性能割等の納付不足額が発生した場合の特例について、納付不足額を徴収する際に加算する割合(現行:10%)を
35%に引き上げる。


国際課税

○ グローバル・ミニマム課税への対応
・グローバル・ミニマム課税について、所得合算ルールに係る法制化を行うため、各対象会計年度の国際最低課税額に対する法人税(仮称)及び特定基準法人税額
に対する地方法人税(仮称)を創設する。その際、法人税による税額と地方法人税による税額が 907:93 の比率となるよう制度を措置するとともに、対象企業
の事務手続きの簡素化に資する措置を導入する。
・外国子会社合算税制について、特定外国関係会社の適用免除要件である租税負担割合の閾値引下げ等の見直しを行う。


納税環境整備

○ 電子帳簿等保存制度の見直し
・電子取引の取引情報に係る電磁的記録の保存制度については、電子取引の取引情報に係る電磁的記録の保存をすることができなかったことにつき相当の理由
がある事業者等に対する新たな猶予措置を講ずるとともに、検索機能の確保の要件について緩和措置を講ずる。
・過少申告加算税の軽減措置の対象となる優良な電子帳簿について、その範囲を合理化・明確化する。
○ 課税・徴収関係の整備・適正化
・申告義務を認識していなかったとは言い難い高額な無申告に対し、無申告加算税の割合を引き上げる。また、連年にわたって繰り返し無申告加算税等を課され
る者が行う更なる無申告に課される無申告加算税等を加重する措置を講ずる。
○ ふるさと納税における前指定対象期間に係る基準不適合等への対応
・ふるさと納税の指定制度に関し、前の指定対象期間における基準不適合等の事案について、2年前にまで遡って取消事由とできることとする。


関税

○ 暫定税率等の適用期限の延長等
・令和4年度末に適用期限の到来する暫定税率(412 品目)の適用期限を1年延長する等の措置を講ずる。
○ 急増する輸入貨物への対応
・輸入申告項目に「通販貨物の該否」及び「国内配送先」等を追加する。
・税関事務管理人制度について、非居住者による届出がない場合、税関長が国内関連者を税関事務管理人として指定できる等の規定の整備を行う。

財務省「税制改正の大綱の概要(令和4年12月23日 閣議決定) https://www.mof.go.jp/tax_policy/tax_reform/outline/fy2019/31taikou_gaiyou.pdf(2023年1月13日)

相続税に強い税理士なら、長野県松本市の小沢税務会計事務所

【令和5年度 税制改正大綱のポイント】

 今回の改正は「家計資産の投資による資産所得倍増」「より公平で中立的な税制の実現」等を中心とされており、翌年以降は「防衛力強化に係る財源確保のための税制措置」を設定するとしています。

 相続等に関しては、従来の相続税の計算や生前対策の基本知識としてあった暦年課税の3年以内贈与財産の持ち戻しについて延長することが明記されるという大きな改正となりました。

 一方で、相続時精算課税制度については暦年課税のメリットであった年110万円の基礎控除を新設するとして資産課税強化とのバランスを取っています。

 ここでは、令和5年度税制改正大綱の相続に係る資産課税について取り上げます。

  

暦年課税における相続財産への加算を3年から7年に

 暦年贈与は、相続発生日から3年以内の贈与について相続税の計算上、相続財産へ加算しなければならない制度ですが、この期間が7年へ延長されます。

 暦年贈与については、『相続が発生前の方へ~暦年贈与~』 をご覧ください。

 上記の改正は令和6年1月1日以後に贈与により取得した財産から適用されるため、令和9年1月1日以後に発生する相続が対象となります。

 この改正は、財産が多く相続税率が高い予定被相続人が税負担を下げるために行う贈与を防ぐ狙いがあると考えられ、高所得者に対する課税強化とも言えます。

 

 生前対策として相続財産を減らす目的で予定被相続人が親族等へ贈与を行うことは一般的であり、今後の相続税対策としても大きな影響があることは明白です。

 一方で、延長した4年分については総額100万円まで相続財産に加算しないとしているため、年間110万円の暦年課税の非課税限度枠内で贈与している方に対しては影響は少ないでしょう。

 

 しかし従来は3年以内の持ち戻しであったことを考慮すると、倍以上の7年に課税期間が伸びることは大幅な増税とも言える改正でしょう。

 

相続時精算課税制度の見直し

 相続時精算課税は、2500万円までの贈与税を非課税としたうえで相続発生時に贈与分を相続税の計算上相続財産へ加算する制度です。

 相続時精算課税については、『相続が発生前の方へ~相続時精算課税による贈与~』 と 『相続時精算課税の注意点と活用方法』をご覧ください。

 改正点は、以下の2点になります。

 ① 年110万円の基礎控除
 ② 非課税贈与の申告不要

 ①については、暦年課税の毎年110万円の贈与税非課税枠を適用できなくなる従来のデメリットを解消しています。

 ②についても、贈与を行った際に金額にかかわらず申告が必要になってしまう従来のデメリットを解消しています。

 そのため相続時精算課税を選択するメリットが大きかった相続税がかからない人だけでなく、比較的低い税率で相続税がかかる人など多くの人が選択する意義が生まれたと考えます。

 

 従来になかった非課税枠が創設されたため、手続きの簡略化も併せた減税とも言える改正でしょう。

 

・教育や結婚目的贈与の優遇措置の期限延長

 教育資金(最大1,500万円)・結婚子育て資金(最大1,000万円)の一括贈与についての優遇措置(非課税)について適用期限を2年延長します。

 教育資金等の一括贈与については、 贈与事実の認定について ~暦年課税・教育資金などの非課税財産~ を併せてご覧ください。

 教育資金等については、活用したほうがいいケースが少ないと考えるため、その都度贈与されることをお勧めします。

  

 優遇措置の延長ではあるため、減税政策の継続とも言える改正でしょう。

 

【まとめ】

 令和5年度税制改正大綱では、どの税制についても大幅な増税案が目立つ形となっています。

 今後の改正についても満遍なく増税する方向となっており、特に高所得者へ負担を強いる形にもなっています。

  

 資産課税については相続時精算課税をより使いやすくする改正となりましたが、長年変わることのなかった暦年贈与について引き締めとなる改正を打ち出したことによって、課税逃れや高所得者に対する更なる課税を強めています。

 相続・贈与については他の税制より反発が少ないため、今後も更なる引き締めが続くと考えます。