【所得税の基礎控除の改正ポイントを解説】令和7年度税制改正による所得税の基礎控除の見直し等について

税制改正の概要

 令和7年4月に令和7年度税制改正による所得税の基礎控除の見直し等について発表されました。

 改正点概要は、以下のようになっております。

 

1 基礎控除の見直し
(1)次のとおり、合計所得金額に応じて、基礎控除額が改正されました。
合計所得⾦額132万円以下 :  95万円(改正前:48万円)
合計所得⾦額132万円超336万円以下 : 88万円(令和9年分以後は58万円)(改正前:48万円)
合計所得⾦額336万円超489万円以下 :  68万円(令和9年分以後は58万円)(改正前:48万円)
合計所得⾦額489万円超655万円以下 :  63万円(令和9年分以後は58万円)(改正前:48万円)
合計所得⾦額655万円超2,350万円以下 :  58万円(改正前:48万円)
(注) 1  改正後の所得税法第86条の規定による基礎控除額58万円に、改正後の租税特別措置法第41条の16の2の規定による加算額を加算した額となります。
2  合計所得⾦額が655万円以下の場合は、58万円にそれぞれ37万円、30万円、10万円、5万円を加算した⾦額となります。なお、この加算は、居住者についてのみ適用があります。
3  合計所得金額2,350万円超の場合の基礎控除額に改正はありません。
(2) 基礎控除額の改正に伴い、令和8年分以後の「源泉徴収税額表」及び公的年金等に係る源泉徴収税額の計算における控除額について、所要の改正が行われました。

2 給与所得控除の見直し
(1) 給与所得控除について、55万円の最低保障額が65万円に引き上げられました。
(2) 給与所得控除の改正に伴い、令和7年分以後の「年末調整等のための給与所得控除後の給与等の⾦額の表」及び令和8年分以後の「源泉徴収税額表」が改正されました。

3 特定親族特別控除の創設
(1) 居住者が特定親族を有する場合には、その居住者の総所得⾦額等から、その特定親族1⼈につき、その特定親族の合計所得⾦額に応じて最⾼63万円を控除する特定親族特別控除が創設されました。
 なお、年末調整において特定親族特別控除の適⽤を受けようとする⼈は、給与の支払者に「給与所得者の特定親族特別控除申告書」を提出する必要があります。
(注)  「特定親族」とは、居住者と⽣計を⼀にする年齢19歳以上23歳未満の親族(配偶者、⻘⾊事業専従者として給与の⽀払を受ける⼈及び⽩⾊事業専従者を除きます。)で合計所得⾦額が58万円超123万円以下の⼈をいいます。
 なお、親族には児童福祉法の規定により養育を委託された、いわゆる里子を含みます。
(2) 令和8年1月以後に支払うべき給与及び公的年金等について、それぞれ次の場合に、特定親族特別控除が各⽉(⽇)の源泉徴収の際に適⽤されることとされました。
給与 : 親族の合計所得⾦額が58万円超100万円以下である場合
公的年⾦等 : 親族の合計所得⾦額が58万円超85万円以下である場合

4 扶養親族等の所得要件の改正
上記1⑴の基礎控除の改正に伴い、次のとおり、扶養控除等の対象となる扶養親族等の所得要件が改正されました。
扶養親族及び同⼀⽣計配偶者の合計所得⾦額の要件 : 58万円以下(改正前:48万円以下)
ひとり親の⽣計を⼀にする⼦の総所得⾦額等の合計額の要件 : 58万円以下(改正前:48万円以下)
勤労学⽣の合計所得⾦額の要件 : 85万円以下(改正前:75万円以下)
 また、上記2⑴の給与所得控除の改正に伴い、家内労働者等の事業所得等の所得計算の特例について、必要経費に算入する金額の最低保障額が65万円(改正前:55万円)に引き上げられました。

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【所得税の基礎控除等の改正ポイント】

 今回の改正は、物価上昇局面における税負担の調整及び就業調整対策の観点から、所得税の基礎控除の控除額及び給与所得控除の最低保障額の引上げ並びに大学生年代の子等に係る新たな控除の創設を行うとしています。

 所得税の基礎控除は全ての人に該当する項目であり、給与所得控除についても給料を受け取る全ての人に該当する項目でもあるため、国民全員が知識をつけておきたい改正内容だと思います。

  

所得税の基礎控除は段階的に48万円→58万円へ

 所得税の基礎控除は近年の改正項目で、2019年まで所得に関係なく38万円であったものが、2020年に最大48万円(2,400万円超の高所得者は段階的に控除額減)となりました。

 ただし、2020年の所得税の基礎控除の拡充は、給与所得控除額が減額されたことに対応するものであったため多くの給与所得者はその恩恵を受けることができなかったと思われます。

 今回の2025年の所得税の基礎控除の改正では、併せて給与所得控除額も増額されるため多くの給与所得者にとっては減税措置となると考えられます。

 

令和7~8年分の所得税の基礎控除額は段階的に増額

 令和7年及び令和8年では、合計所得金額が655万円以下の場合、控除額が最大37万円まで上乗せされる時限措置が設定されました。

 給与所得者の場合は、給与所得控除など各種控除を差し引いた金額で判定するため多くの給与所得者が上乗せの恩恵を受けることができると思います。

 

給与所得控除の最低額が55万円→65万円へ

 所得税の給与所得控除は近年の改正項目で、2019年まで最低額65万円であったものが、2020年に最低額55万円と引き下げられました。

 ただし、2020年の所得税の給与所得控除の引き締めは、基礎控除の10万円引き下げに対応するものでありましたが多くの給与所得者は変わらずもしくは増税となる改正でした。

 今回の2025年の給与所得控除の改正では給与収入が190万円以下の人は給与所得控除が一律65万円受けられ、従来の給与所得控除より大きくなっているため多くの給与所得者にとっては減税措置となると考えられます。

 

・所得税の特定扶養親族の扶養控除の拡充

 年齢が19歳以上23歳未満(特定親族)で給与所得が103万円以下など扶養の条件を満たす場合、以前までは63万円の特定扶養親族の扶養控除がありました。

 今回の改正では、特定扶養親族の所得に応じて扶養控除が段階的に適応できることになりました。

 基礎控除や給与所得控除が拡充されているため、大学生の子がいる家庭などは従来の特定扶養控除も取りつつ、その子が以前より多くのアルバイトなどができるようにもなります。

 

・103万円の壁→160万円の壁→123万円の壁へ

 103万円の壁とは、給与所得者が所得税の発生しない・家族の扶養に入れるラインのことを言いましたが、基礎控除や給与所得控除の改正により令和7年より段階的に123万円の壁になります。

 令和7~8年分については時限措置により基礎控除が引き上げられているため、令和8年分までは160万円の壁、令和9年分以降は123万円の壁になると言えます。

 親の扶養に入りたい学生アルバイトの人や所得税の発生しない範囲で給与を受け取りたい専従者給与の人などは、本年度より働く時間や給与額を増やすことも検討できるかと思います。

 

・所得税以外にも注意

 以前からあった103万円の「所得税の壁」に対する100万円の「住民税の壁」について令和7年4月現在では住民税の控除額の計算方法などは決定されていないため注意してください。

 

 

【まとめ】

 令和7年度4月の所得税に係る控除の改正では、どの税制についても大幅な減税案が目立つ形となっています。

 所得税において家族の扶養控除を受けるられることが節税対策ではとても重要であるため、基礎控除や給与所得控除の引き上げはとても大きなメリットです。

 労働者世代は給与所得者が圧倒的に多いですが、基礎控除や給与所得控除の引き上げはそれら労働者世代にとって嬉しい政策だと考えます。

 近年の減税時限措置は該当者が低所得者層に限られる政策が多くなりがちですが、2年間の基礎控除の引き上げは多くの労働者世代に該当する減税政策であるため減税の実感がある内容だと思います。