地積規模の大きな宅地の評価 ~広大地評価との比較~

 平成29年度税制改正大綱により広大地の評価について、「広大地の評価について、現行の面積に比例的に減額する評価方法から、各土地の個性に応じて形状・面積に基づき評価する方法に見直すとともに、適用要件を明確化する。」(財務省 「平成29年度税制改正の大綱」 より抜粋)とされ、平成30年1月1日より広大地の評価が廃止となり、地積規模の大きな宅地の評価が適用されるようになりました。

 広大地評価又は地籍規模の大きな宅地の評価は、相続財産・贈与財産としても大きな金額となりやすい土地に関する評価であり、適用することができれば非常に大きな節税効果があります。

 当記事では、前年までの適用となる広大地の評価と当年より適用となる地積規模の大きな宅地の評価について比較し、変更点や適用要件などを説明します。

 これから発生する相続財産に適用される地積規模の大きな宅地の評価は、大筋の要件は従来の広大地評価に準じていますので併せてご確認ください。

【広大地評価】

・広大地評価について

 広大地の評価

 1.広大地とは
 広大地とは、その地域における標準的な宅地の地積に比して著しく地積が広大な宅地で、都市計画法第4条第12項に規定する開発行為を行うとした場合に公共公益的施設用地の負担が必要と認められるものをいいます。
 ただし、大規模工場用地に該当するもの及び中高層の集合住宅等の敷地用地に適しているものは除かれます。

 (注)
 1.都市計画法第4条第12項に規定する開発行為とは、主として建築物の建築又は特定工作物の建設の用に供する目的で行う土地の区画形質の変更をいいます。
 2.公共公益的施設用地とは、道路、公園等の公共施設の用に供される土地及び教育施設、医療施設等の公益的施設の用に供される土地をいいます。
 3.大規模工場用地とは、一団の工場用地の地積が5万以上のものをいいます(ただし、路線価地域においては、大工場地区として定められた地域に所在するものに限ります。)。
 4.中高層の集合住宅等の敷地用地に適しているものとは、その宅地について経済的に最も合理的であると認められる開発行為が中高層の集合住宅等を建築することを目的とするものであると認められるものをいいます。

 2.評価方法
 広大地の価額は、次に掲げる区分に従い、それぞれ次により計算した金額によって評価します。

 ⑴ 広大地が路線価地域に所在する場合
 広大地の価額=広大地の面する路線の路線価×広大地補正率×地積
 (広大地補正率 = 0.6 - 0.05 × (広大地の地積 / 1,000㎡) )

 ⑵ 広大地が倍率地域に所在する場合
 その広大地が標準的な間口距離及び奥行距離を有する宅地であるとした場合の1㎡当たりの価額を、上記⑴の算式における「広大地の面する路線の路線価」に置き換えて計算します。

 (注)
 1.上記⑴の広大地の面する路線の路線価が2以上ある場合には、原則として、最も高いものとします。
 2.広大地として評価する宅地は、5,000㎡以下の地積のものとされています。したがって、広大地補正率は0.35が下限となります(地積が、5,000㎡を超える広大地であっても広大地補正率の下限である0.35を適用して差し支えありません。)。
 3.広大地補正率を適用して計算した価額が、その広大地を財産評価基本通達11(評価の方式)から21-2(倍率方式による評価)まで及び24-6(セットバックを必要とする宅地の評価)の定めにより評価した価額を上回る場合には、その広大地の価額は同通達11から21-2まで及び24-6の定めによって評価します。
 4.広大地補正率は端数処理を行いません。

国税庁 広大地の評価https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hyoka/4610.htm(2020年4月24日)

 

 「広大地の評価」は、課税時期が平成29年12月31日以前の場合に適用します。

 

 広大地とは、いわゆる区画整理をして住宅を何軒も建てることができる分譲地のようにすることができる大きな土地を指します。

 面積の大きな土地は、大きければ大きいほど価格が上がり、一般的な宅地を建てる際に必要とする広さにも限度がありますので、売ることが難しくなります。

 また、区画整理をして開発を行うと、道路や公園のように実際に売ることができない土地が出てきます。

 そのように通常の宅地よりも不利な部分を土地の評価に盛り込むため、広大地評価の規定が存在します。

 

 広大地に該当するかどうかの判定で、特に重要なポイントとして

 ① 開発許可基準面積とされる1,000㎡以上(三大都市圏の市街地区域は、500㎡以上)の面積があること
  ※ 開発基準面積に満たないミニ分譲地も含む

 ② 大規模工場用地に該当しないこと

 ③ 開発行為を行う際に、公共公益的施設用地をつくる必要があること

 ④ 対象地が地域の標準的な宅地の画地面積と比較して、著しく大きいこと

 ⑤ マンション適地ではないこと

 ⑥ 市街化調整区域ではないこと

 などが挙げられます。

 

 これらは、細かい規定や事例がありますのでもう少し掘り下げて説明します。

 

 ① 開発許可基準面積以上の面積があること

 まず、開発許可基準面積とされる1,000㎡以上の土地、三大都市圏の市街地区域の開発許可基準面積とされる500㎡以上の土地、の面積数値はあくまで目安であることです。

 広大地には、ミニ分譲地とよばれる広大地評価上の基準である開発許可基準面積に満たないものの、分譲地としての性格が強いため広大地評価が認められる土地も含まれます。

 例としては、ミニ開発分譲が多い地域に存する土地については、開発許可を要する面積基準に満たない場合であっても、広大地に該当する場合がある、とされています。

 

 ② 大規模工場用地に該当しないこと

 大規模工場用地とは、一団の工場用地の地積が5万㎡以上のものを指します。

 一団の工場用地とは、工場、研究開発施設等の敷地の用に供されている宅地及びこれらの宅地に隣接する駐車場、福利厚生施設等の用に供されている一団の土地をいいます。

 これらに当てはまらない中小規模の工業用地では、広大地評価が使える可能性がありますが、その判断は、周りの土地の用途(大規模な工場があるかどうか、一定の交通機関などの高速道路があるかどうか)などによります。

 

 ③ 開発行為を行う際に、公共公益的施設用地をつくる必要があること

 分譲地を例にとると、開発される住宅地には、車を通行するための道路や安全地帯としての公園などをつくる義務があります。

 1,000㎡以上の大きな土地や既存道路に面している辺が少ない土地、間口が狭い土地、奥長な土地などは、開発をする際に道路・公園などをつくる必要があるとされる場合が多いようです。

 

 ④ 対象地が地域の標準的な宅地の画地面積と比較して、著しく大きいこと

 主に、① 開発許可基準面積以上の面積があること に該当することで当判定ポイントは達成されています。

 その他、参考になるものとしては、戸建て分譲で区画割りする際の最低敷地面積や公示の標準地とされる土地の面積があります。

 

 ⑤ マンション適地ではないこと

 マンション適地とされる基準として、対象地が容積率が300㎥以上の地域内であることが挙げられます。

 その他、参考として周辺地域の土地の使用状況やマンションの需要などにより判断されます。

 マンションとして売買することができる土地であれば売買に困ることは無く評価を下げる必要もないということです。

 

 ⑥ 市街化調整区域ではないこと

 市街化調整区域とは、市街化を禁止・制限される区域で、農林漁業の振興や環境保全を図るために、住宅を新築することや増改築するなどの開発行為が制限される地域をいいます。

 松本市では、住宅地、商業地などの周辺部にあり、多くは田畑果樹園になっています。

 一方で、市街化区域とは、住宅を新築することや増改築するなどの開発ができる又は既にされている地域をいいます。

 現実に、住宅分譲地などがつくれる地域の土地でなければ広大地には該当しないということです。

 

 このように広大地として認められるためには要件が多い半面、実状による判断を必要とするような曖昧な面もあります。

 その他ポイントとして、

 広大地評価は路線価を基準としますが、路線価は標準的な土地としての価格であるため対象地の形状などは評価額に反映されません。

 また、倍率地区においても市町村の路線価を使うことで広大地評価はできます。

 

 これら要件にすべて該当し、広大地と判定される場合には、1,000㎡の土地で45%の評価減、5,000㎡の土地で65%の評価減になります。

 住宅を建てられる大きな土地は、資産価格がとても大きいでしょう。

 この評価が使える場合も少なくありませんので、該当する土地なのかどうか必ず調べましょう。

【地積規模が大きな宅地の評価】

・広大地評価からの変更点

 1.地積規模の大きな宅地とは
 地積規模の大きな宅地とは、三大都市圏においては500㎡以上の地積の宅地、三大都市圏以外の地域においては1,000㎡以上の地積の宅地をいいます。

 (注)次の1から4のいずれかに該当する宅地は、地積規模の大きな宅地から除かれます。
 1.市街化調整区域(都市計画法第34条第10号又は第11号の規定に基づき宅地分譲に係る同法第4条第12項に規定する開発行為を行うことができる区域を除きます。)に所在する宅地
 2.都市計画法の用途地域が工業専用地域に指定されている地域に所在する宅地
 3.指定容積率が400%(東京都の特別区においては300%)以上の地域に所在する宅地
 4.評価通達22-2に定める大規模工場用地

 2.「地積規模の大きな宅地の評価」の対象となる宅地
 「地積規模の大きな宅地の評価」の対象となる宅地は、路線価地域に所在するものについては、地積規模の大きな宅地のうち、普通商業・併用住宅地区及び普通住宅地区に所在するものとなります。また、倍率地域に所在するものについては、地積規模の大きな宅地に該当する宅地であれば対象となります。

 3.評価方法
 ⑴ 路線価地域に所在する場合
 「地積規模の大きな宅地の評価」の対象となる宅地は、路線価に、奥行価格補正率や不整形地補正率などの各種画地補正率のほか、規模格差補正率を乗じて求めた価額に、その宅地の地積を乗じて計算した価額によって評価します。

 評価額 = 路線価 × 奥行価格補正率 × 不整形地補正率などの各種画地補正率 × 規模格差補正率 × 地積(㎡)

 ⑵ 倍率地域に所在する場合
 「地積規模の大きな宅地の評価」の対象となる宅地は、次に掲げる①の価額と②の価額のいずれか低い価額により評価します。
 ① その宅地の固定資産税評価額に倍率を乗じて計算した価額
 ② その宅地が標準的な間口距離及び奥行距離を有する宅地であるとした場合の1㎡当たりの価額に、普通住宅地区の奥行価格補正率、不整形地補正率などの各種画地補正率のほか、規模格差補正率を乗じて求めた価額に、その宅地の地積を乗じて計算した価額

 (注) 市街地農地等(市街地農地、市街地周辺農地、市街地山林及び市街地原野をいいます。)については、その市街地農地等が宅地であるとした場合に「地積規模の大きな宅地の評価」の対象となる宅地に該当するときは、「その農地が宅地であるとした場合の1㎡当たりの価額」について「地積規模の大きな宅地の評価」を適用して評価します。

国税庁 地積規模の大きな宅地の評価 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hyoka/4609.htm (2020年4月24日)

 「地積規模の大きな宅地の評価」は、課税時期が平成30年1月1日以降の場合に適用します。

 

 広大地評価の制度が地積規模の大きな宅地の評価に置き換わる形となりましたが、その内容は従来のものと大きくは変わりません。

 ポイントとしては、面積による比例的な評価方法から、面積に足してその土地の特徴に基づいて評価する方法になりました。

 曖昧さを含む部分があった制度の適用要件が明確化され、地積規模の大きな宅地に当てはまるかどうかの判断が分かりやすくなりました。

 ただし、従来の広大地評価に比べて評価額の減額が少なくなってしまうケースが多くなるため、納税者にとっては不利になるでしょう。

 

 例として、広大地・地積規模の大きな宅地 に当てはまる土地を評価する場合、

 路線価 100,000円
 土地 1,000㎡(三大都市圏の市街地区域以外の標準地) 

 のケースは、以下の通りです。

 宅地評価
  100,000円(路線価) × 1,000㎡(地積)

  1億円

 広大地評価
  100,000円(路線価) × 55%(1,000㎡の広大地補正率) × 1,000㎡(地積)

 = 5,500万円

 地積規模の大きな宅地の評価
  100,000円(路線価) × 100%(各種補正率〔標準地なので評価減なし〕) × 80%(1,000㎡の規模格差補正率) × 1,000㎡(地積)

= 8,000万円

 

 また、

 路線価 100,000円
 土地 5,000㎡(三大都市圏の市街地区域以外の標準地) 

 のケースは、以下の通りです。

 宅地評価
  100,000円(路線価) × 5,000㎡(地積) 

= 5億円

 広大地評価
  100,000円(路線価) × 35%(5,000㎡の広大地補正率) × 5,000㎡(地積)

= 1億7,500万円

 地積規模の大きな宅地の評価
  100,000円(路線価) × 100%(各種補正率〔標準地なので評価減なし〕) × 72%(5,000㎡の規模格差補正率) × 5,000㎡(地積)

= 3億6,000万円

 

 従来の広大地評価による評価額と比較して、1,000㎡の土地ではおよそ3割増し、5,000㎡の土地に至ってはおよそ5割増しにもなります。

 現実には、標準地のような文句のつけようがない土地は少ないため、奥行価格補正や不整形地補正などの各種補正率による評価減も見込めるでしょうが、従来の広大地評価ほどの節税効果は見込めないでしょう。

 

 その他の変更点として、以下が挙げられます。

 

・ 広大地評価条件では、開発許可基準面積に満たないものの、分譲地としての性格が強いために広大地として認められるミニ分譲地も含まれていたが、開発許可基準面積に満たないものは適用できない

・ 広大地評価条件では、大規模工場用地に該当しないことがあったが、工業専用地域が対象から外され、中小規模の工場地区の宅地についても適用できない 

・ マンション適地かどうか指定容積率のみの判断によらず、周辺地域の土地の使用状況やマンションの需要なども加味して判断されていたが、指定容積率が400%(東京都の特別区においては300%)以上の地域に所在する宅地には適用できない 

 

【まとめ】

 地積規模の大きな宅地の評価は、従来の広大地評価と比較して不利になる点はあっても、依然として大きな節税効果があることには変わりません。

 対象地であれば評価の際には、必ず考慮しましょう。

 

 相続対策として、生前に周辺宅地を購入するなど対策をすることで地積規模の大きな宅地の要件に当てはまる場合もあります。

 1つの大きな宅地だけでなく、隣り合っている複数の土地を合わせて1つの大きな宅地になる場合も当てはまりますので確認するといいでしょう。

 

 財産の評価について、特に土地建物などの不動産はその金額の大きさにより、応用力を求められ、柔軟豊富な知識と実務経験を必要とします。

 今回の改正により広大地評価にも各種補正率による評価減項目が加えられ、計算上さらに財産評価の実力が求められることとなりました。 

 金額が大きい分、節税効果やリスクも大きくなるため、適切な申告ができるよう、相続税・贈与税に強い会計事務所に依頼されることが良いと考えます。

 

〈こちらの記事は、2018/4/6更新記事を参考に作成しています。〉