法人の事業承継税制による納税猶予の活用

 中小企業の廃業の増加による経済打撃を防ぐため、会社経営者からその後継者へ経営権を引き継ぐ事業承継を促進させるための政策として事業承継税制が創設されました。

 事業承継税制は近年でも、平成30年税制改正大綱、最新の平成31年税制改正大綱にも、その拡充措置が盛り込まれています。

 納税猶予の対象となる自社株式は評価額が高額になるケースが多く、非常に高い節税効果があるためとても注目されています。

 これから先、親族間で世代交代などによる経営移譲を考えられている人だけでなく、実際に相続が発生してしまったときにも活用できる制度で、制度が適用できる人は必ず活用したい制度です。

 事業承継税制による贈与税・相続税の納税猶予を受けるには様々な要件があるため、今一度確認してください。

 

 個人版事業承継税制については、 個人事業者の事業承継税制による納税猶予の活用 をご覧ください。

相続税に強い税理士なら、長野県松本市の小沢税務会計事務所

【法人の事業承継税制の概要】

・事業承継税制について

 事業承継税制は、後継者である受贈者・相続人等が、円滑化法の認定を受けている非上場会社の株式等を贈与又は相続等により取得した場合において、その非上場株式等に係る贈与税・相続税について、一定の要件のもと、その納税を猶予し、後継者の死亡等により、納税が猶予されている贈与税・相続税の納付が免除される制度です。

国税庁 事業承継税制特集 https://www.nta.go.jp/publication/pamph/jigyo-shokei/index.htm(2020年11月26日)

 事業承継税制による納税猶予は、先代経営者から後継者への自社株式を対象に、贈与・相続によって発生する贈与税・相続税が納税猶予になります。

 納税猶予と言うものの一定の要件を継続することで実質免税になります。

 これらは資本や純利益の大きい会社であればあるほど、必ずと言っていいほど節税効果のある制度です。

 経営者の高齢化等により会社数が減少傾向にあるため、この制度はますます拡充されていくことが予想されます。

 

 平成30年度税制改正では10年間の特例措置として、以下のものが創設されました。

・納税猶予の対象財産である株式の制限(総株式数の2/3)の撤廃
・贈与税が100%に対して相続税のみ80%であった納税猶予割合を同等の100%に引き上げ
・贈与者、被相続人、後継人が1人から複数人(後継人は3名まで)に拡大
・5年間8割の雇用確保要件が実質撤廃
・譲渡、合併、解散などによる減免制度の創設

 税制改正については、 平成30年 税制改正大綱が発表されました を併せてご覧ください。

 

【納税猶予を受けるための要件】

・会社の主な要件

 ⑴ 上場会社ではなく、中小企業者に該当する会社

 中小企業者とは、中小企業基本法により定められる企業で、以下の項目により決定されます。

 ・業種
 ・資本金の額 等
 ・常時使用する従業員の数

 小規模事業者という最も小さな規模を示す企業もあり、中小企業者はほどほどの規模で事業を行っている企業を指します。

 詳しくは、 「中小企業の定義について」 をご覧ください。(中小企業庁HP)

 

 ⑵ 風俗営業会社又は資産管理会社、及び、総収入金額がゼロ又は従業員数がゼロではない会社

 資産管理会社とは、有価証券、自ら使用していない不動産、現金預金等の特定の資産の保有割合が総額の70%以上の会社や、これらの特定の資産からの運用収入が総収入額の75%以上の会社のことを言います。

 主に、株や不動産などの資産を管理することを目的とするプライベートカンパニーのような会社が当てはまります。

 

・後継者である受贈者(相続人等)の主な要件

 ⑴ 会社の代表権を有していること

 贈与の場合には贈与時において、相続の場合には5ヶ月以内会社の代表になる必要があります。

 また、後継人が複数いる場合には一定の議決権数を保有することが求められます。

 

 ⑵ 後継者が総議決権数の50%超を保有する

 後継者が総議決権数を過半数保有することで会社を実質支配する必要があります。

 ただし、後継者と特別な関係がある者と合わせて総議決権数の過半数を保有することも認められます。

 

 ⑶ 会社役員であること

 贈与の場合には3年以上相続の場合には相続開始時役員である必要があります。

 ただし、相続の場合は被相続人が60歳未満で死亡した場合を除きます。

 

 ⑷ 担保を提供する

 納税が猶予される税額及び利子税の額に見合う担保を税務署に提供する必要があります。

 この制度を受ける非上場株式等をすべて担保に提供することでも認められます。

 

・先代経営者等である贈与者(被相続人)の主な要件

 ⑴ 会社の代表権を有しており、総議決権の50%超を保有している

 後継者と特別な関係がある者と合わせて総議決権数の過半数を保有している場合には、後継者を除いたこれらの者の中で最も多くの議決権を保有している必要があります。

 

【納税猶予を受けるための手続き】

・納税猶予を受けるための主な手続き

 ⑴ 特例継承計画の提出・確認、円滑化法の認定

 事業承継税制の特例は平成30年1月1日から10年間となっており、会社の後継者や承継時までの経営見通しなどを記載した特例承継計画を策定し、平成35年3月31日までに都道府県知事に提出し確認を受ける必要があります。

 その後、贈与時又は相続開始時に、

 ・会社の要件
 ・後継者である受贈者(相続人等)の要件
 ・先代経営者等である贈与者(被相続人)の要件

 を満たしていることについての都道府県知事の円滑化法の認定申請をして、適用を受ける必要があります。

 

 ⑵ 申告書及び認定書の提出

 贈与税・相続税の申告期限までにこの制度の適用を受ける旨を記載した申告書と認定書の写しを税務署に提出する必要があります。

 また、自社株式等の贈与で相続時精算課税の適用を併せて受ける場合には、その旨も記載します。

 贈与税の納税猶予を受ける際に相続時精算課税を活用することで、認定取り消しにより高額な贈与税を負担するリスクを軽減することができます。

 

 ⑶ 継続届出書及び年次報告書の提出

 申告期限後から5年間(経営承継期間)は、税務署へ納税猶予を受けるための継続届出書、都道府県庁へ年次報告書を提出する必要があります。

 経営承継期間後は、3年に1度、継続届出書を税務署へ提出する必要があります。

 

【納税猶予額が免除される場合】

納税猶予額が免除される場合

 以下の事由があった場合に、免除届出書・免除申請書を提出することにより、納税が猶予されている税額の全部または一部について納付が免除されます。

 

 ⑴ 後継者(又は先代経営者等)が死亡した場合

 後継者が死亡した場合、猶予されている贈与税及び相続税は免除されます。

 また、贈与税の納税猶予を受ける目的となった贈与に係る贈与者である先代経営者が死亡した場合にも、猶予されている贈与税は免除されますが、贈与税の納税猶予の対象となっていた自社株式は相続したとみなされるため、贈与税に代わって相続税が課されることになります。

 そのため、贈与税が免除された後は、引き続き相続税の納税猶予を受けることになるケースが多いでしょう。

 

 ⑵ 免除対象贈与を行った場合

 免除対象贈与とは、納税猶予の対象となっている自社株式を後継者が別の後継者へ贈与し、その贈与された後継者が新たに納税猶予の特例を受ける場合の贈与を言います。

 ただし、申告期限後から5年間(経営承継期間)以内に免除対象贈与を行う場合には、精神・身体障害や要介護の認定を受けるなどやむを得ない理由がある上で、会社の代表権を有しくなった日以後に免除対象贈与を行うことが必要です。

 

 ⑶ 経営承継期間の経過後に会社が破産した場合

 申告期限後から5年間(経営承継期間)経過後に、事業承継した会社が破産した場合は、猶予されている贈与税及び相続税は免除されます。

 

 ⑷ 経営承継期間の経過後に事業の継続が困難な一定の事由が生じ、会社を譲渡・解散した場合

 経営承継会社を譲渡・解散は、納税猶予額の全額免除ではなく一部免除の要件になります。

 事業の継続が困難な一定の事由とは、一定期間の赤字や売上の減少、類似業種の上場企業の株価の下落や心身の故障等を指します。

 経営承継会社を譲渡・解散した場合、解散時の相続税評価額又は実際の売却価格などを基に贈与税・相続税額を再計算し、当初の納税猶予額を下回る差額が免除になります。

 ただし、再計算にあたっては、当初の納税猶予額から差し引く実際の売却価格は相続税評価額の50%を限度とし、過去5年間の配当や過大な給与は税額に加算されます。

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 以上より、事業承継に係る納税猶予の特例は、一定の条件を満たすことで贈与税・相続税が免除される特例であることが分かります。

 この特例が使えるケースとして簡潔にまとめると、以下のようになります。

 

 ・中小企業の社長等(親などの親族)が、後継人(子供などの親族)に経営権を譲り渡す場合

 ・特例承継計画を提出し、贈与税・相続税の申告期限までに所定の手続きを行う

 ・贈与者又は受贈者(又は相続人)が死亡するまで事業を継続し、継続届出書及び年次報告書を提出する

 

 これらの条件を満たすことで贈与税・相続税が免除されるため、親から子へ事業を引き継ぐような場合などには活用できる制度となっています。

 制度上は、親から子など親族間に限らず納税猶予は受けられますが、贈与・相続は無償で譲り渡す行為であることを考慮すると、親から子への経営移譲であるケースがほとんどであるでしょう。

 

 次世代へ早期に経営移譲するために自社株式を贈与するケースでは、税金の中でも非常に高い税率をかけられてしまうことになります。

 一方で、自社株式は相続税評価額が高額になる場合が多いため、多額の相続税が発生するケースも少なくありません。

 それら贈与税・相続税が実質免除されることはとても節税効果のある制度であると言えます。

 

 親から子への経営移譲のケースで、納税猶予後は以下の流れになることが多いでしょう。

 〈贈与の場合〉

 ① 自社株式に対する贈与税の納税猶予の特例を受ける
 ② 贈与者(親)の死亡により猶予されていた贈与税が免除、自社株式に対する相続税が発生
 ③ 自社株式に対する相続税の納税猶予の特例を受ける
 ④ 後継者(子)の死亡、又は後継者(孫など)への免税対象贈与より、猶予されていた相続税が免除

 

 〈相続の場合〉

 ① 自社株式に対する相続税の納税猶予の特例を受ける
 ② 後継人(子)の死亡、又は次の後継人(孫など)への免税対象贈与より、猶予されていた相続税が免除

 

 これら納税猶予額は、贈与や相続により譲り渡す本人が死亡するか、本人から後継人に免税対象贈与をすることによってはじめて、本人にかかっていた納税猶予額が免除されることになります。

 上記の手続きを繰り返していくことで、自社株式にかかる贈与税及び相続税を永久的に免除していくこともできます。

 先代から後継者、さらに先の後継者まで長い時間のかかる節税制度ですが、受けられる恩恵は非常に大きいので是非検討してください。

 

【事業承継税制による納税猶予の考察と補足】

・贈与・相続のどちらで事業承継をするべきか

 結論として、親から子への経営移譲を贈与・相続のどちらで行うべきかの判断は非常に難しいです。

 ただ、一般的な非上場会社であることを前提とすると、一定のケースを除けば相続による事業承継のほうが望ましいと考えます。

 相続による事業承継を勧める理由には以下のことが挙げられます。

 

 ① 経営権はなくても会社運営はできる

 経営権=過半数の自社株式ですが、仮に先代経営者である親が自社株式をすべて持っていても、推定後継者となる子が社長や代表取締役として会社を運営することは可能です。

 

 ② 贈与の場合は贈与時と相続時、手続きが2回必要になる

 贈与税の納税猶予を受ける目的となった贈与に係る贈与者である先代経営者が死亡した場合、猶予されている贈与税は免除されますが、贈与税の納税猶予の対象となっていた自社株式は相続したとみなされるため、贈与税に代わって相続税が課されることになります。

 そのため、相続税の納税猶予も引き続き受けるケースになると思われます。

 つまり、それぞれ以下の手続きが必要になるということです。

 贈与による事業承継 → 贈与税・相続税のいずれも申告・納税猶予の手続き
 相続による事業承継 → 相続税のみ申告・納税猶予の手続き 

 

 ③ 贈与の場合、認定取り消しになったときの贈与税が相続税より大きい

 事業承継税制による納税猶予は、譲渡・解散・手続きの不備などにより認定取り消しになった場合、猶予されていた税額に利子税を上乗せして納付しなければならないというリスクもあります。

 税率や控除などの面で、贈与税は相続税よりも非常に不利であるため、もし認定取り消しになった場合はより多くの税金を納付することになります。

 

・贈与による事業承継を検討するケース

 贈与による事業承継を選択することが望ましいと考えられる場合として、以下のケースが挙げられます。

 

 ① 相続発生時に自社株式について他の相続人とのトラブルになる場合

 先代経営者である親の自社株式を相続する場合、相続人はそれぞれ決められた割合の財産を相続する権利があるため、他の相続人との遺産分割協議がまとまらず、対象株式の相続権を主張されることになると、後継人であろうと全ての対象株式を相続できない可能性があります。

 遺言などにより全ての自社株式を相続できたとしても、他の相続人の遺留分を侵害するだけの財産であれば、減殺請求により自社株式を手放さなければならないこともあります。

 しかし、親の自社株式を生前贈与した場合、贈与契約により既に対象株式の所有権が移転しているため、相続発生時に遺産分割の対象になりません。

 そのため、仮に相続人同士でトラブルになったとしても贈与された自社株式を手放さなければならないことにはなりません。

 贈与をすると多額の税金が発生しますが、贈与税の納税猶予の特例を適用できる場合に初めて、この特例が活用できるでしょう。

 ただし、これらは贈与という行為のメリットであって、相続による事業承継より節税面でのメリットがあるというではないことに留意して下さい。

 

 ② 後継人が親族ではない場合

 上記①と同様に、すべての自社株式を相続できない可能性があります。

 また、自社株式の評価額が相続財産の大半を占めるケースなどでは、相続税率が高くなることで、他の相続人の負担が増え、トラブルになることも考えられます。

 法定相続人ではないような後継人は、贈与により事業承継をすることで、いずれ発生する親族による相続手続きとは一線を画することができます。

 

 ③ 自社株式の評価額が上がる場合

 会社の成長や業績拡大などにより自社株式の価値の増加が予想される場合には、相続による事業承継と比較して節税効果が高くなることもあります。

 贈与税の納税猶予を受ける目的となった贈与に係る贈与者である先代経営者が死亡した場合、贈与税の納税猶予の対象となっていた自社株式は相続したとみなされるため、贈与による経営移譲しても最終的に相続による経営移譲と変わらなくなってしまうとも言えます。

 しかし、相続による事業承継の場合は自社株式を相続発生時の価値を相続税評価額とするのに対して、贈与による事業承継の場合は贈与時の価値を相続税評価額とします。

 そのため、贈与時より相続発生時に自社株式の価値が増加していれば、その分だけ猶予される相続税額も減少することになります。

 納税猶予額の免除まで事業を継続するのであれば関係ありませんが、認定取り消しのリスクの軽減や、譲渡など将来的に猶予されている相続税を納付が考えられる場合であれば、贈与による事業承継は節税効果があるでしょう。

 

・事業承継税制による納税猶予を受ける場合の非上場株式の評価について

 事業承継税制による納税猶予を受ける場合、その対象となる自社株式(非上場株式)の評価額より猶予される税額を算出・決定します。

 評価額が低くければ低いほど、贈与税・相続税は安くなります。

 非上場株式は贈与税及び相続税の計算上も時価で評価されますが、上場株式のように客観的な価額がないため、会社への影響力や会社規模に応じて区分し、それぞれに即した評価方式を定めています。

 これらをまとめると以下のようになります。

 ① 会社の評価方式

 ・原則的評価方式

 会社への影響力があるような株主などの持株を評価する場合の評価方式になります。

 評価方式は、類似業種比準方式又は純資産価額方式、もしくはそれらの併用方式を適用します。

 

 ・特例的評価方式

 同族株主のいる会社では同族株主以外、同族株主のいない会社では議決権割合の合計が15%未満の株主グループに属する株主など会社への影響力がない株主の評価をする場合の評価方式になります。

 評価方式は、配当還元方式を適用します。

 

 ② 会社規模の判定

 会社規模は従業員数・総資産価額・年間の取引金額・業種に応じて、大会社・中会社・小会社に区分されます。

 中会社は、さらに中会社(大)・中会社(中)・中会社(小)に分けられるため、合計5つに区分されます。

 業種ごとにどの区分に分類されるか決められており、従業員数又は純資産価額のいずれか小さい区分と、年間の取引金額を比較していずれか大きい区分を会社規模とします。

 どの業種であっても従業員が70人以上いれば大会社、5人以下で総資産又は年間取引金額が4000万円を超えないような会社であれば小会社に分類されます。

 

 ③ 会社規模による評価方法

 原則的評価方式

 ・大会社 → 類似業種比準価額
 ・中会社(大) → 類似業種比準価額×90%+純資産価額×10%
 ・中会社(中) → 類似業種比準価額×75%+純資産価額×25%
 ・中会社(小) → 類似業種比準価額×60%+純資産価額×40%
 ・小会社 → 純資産価額

 中会社に該当する場合は、それぞれ斟酌率が定められています。

 なお、大会社・中会社に該当する場合、純資産価額方式の評価額のほうが低い場合は、純資産価額を評価額とすることもできます。

 

 特例的評価方式 → 配当還元方式

 なお、配当還元方式が原則的評価方式よりも評価額が高い場合は、原則的評価方式による評価を採用することができます。

 

 ④ 評価方式

 ・類似業種比準価額方式

 事業内容が類似する上場企業の株価に比準して株価を評価する方法になります。

 評価額の算出には主に、過去3期の利益・純資産額・類似する上場企業の株価 などが影響します。

 利益や類似する上場企業の株価は変動しやすいため、評価する時期により評価額が大きく変わるケースが多いです。

 

 ・純資産価額方式

 会社の純資産額をもとに株価を評価する方法になります。

 評価額の算出には主に、資産の評価額・負債の評価額・評価差額(含み益) などが影響します。

 非上場株式の評価額の算出における資産・負債の評価額とは、相続税評価額であることに留意してください。

 資産・負債などより算出される純資産額は変動しにくいため、評価する時期による変動は少ないケースが多いです。

 

 ・配当還元方式

 継続的に受ける配当金額をもとに株価を評価する方法になります。

 評価額の算出には主に、配当金額・資本金額 などが影響します。

 

 

 節税を考えて事業承継による経営移譲を行う場合は、評価額の低くなる方法・タイミングで贈与・相続することが望ましいと考えます。 

 一般的に評価額の大きさは、

 類似業種比準価額方式 > 純資産価額方式 > 配当還元方式(例外)

 となることが多いですが、事業承継税制のケースでは原則的評価方式のみになるため純資産価額方式が最も評価額を低く抑えることができるでしょう。

 また、純資産価額方式による評価額は、会社の資産・負債の相続税評価額などをもとに算出するため、不動産等を購入することによる時価と相続税評価額のギャップを利用するなど、株価のコントロールをすることもできます。

 一方で、類似業種比準価額方式は、国税庁が発表している統計に基づいて数値が関係しているので株価をコントロールすることは難しくなっています。

 前述の通り、企業規模によらず純資産価額方式を選択できるため、検討してみてください。

 

【まとめ】

 事業承継税制により納税猶予を受けるためには、非常に多くの要件があります。

 要件によっては計画的に準備しなければならないものや期限があるものもあります。

 

 事業承継税制が適用できるような同族経営会社のような非上場株式は、経営を続けてきた年数が長ければ長いほど株価が上がります。

 設立当初に数百万円の資本であったとしても、次世代への経営移譲をするときには何十倍何百倍にもなっているケースも少なくありません。

 活用できれば非常に大きな節税効果がある反面、取り消しを受けてしまうと損失を被ることもありますので、将来経営移譲や引き継ぎを考えてられている方は早めに準備していくことがいいでしょう。

 

 また、納税猶予を受けるための準備や手続きにあたっては、自社株式の贈与・相続に係る様々なシミュレーションが必要になります。

 事業承継税制による納税猶予のための株評価から税額算出、申告まで非常に専門的な知識が必要になりますので、税理士・会計事務所などの専門家に依頼することが望ましいです。

 

〈こちらの記事は、2019/4/12更新記事を参考に作成しています。〉