配偶者のいる人が使える税法上の制度 ~相続税と贈与税~
配偶者がいることによる税法上のメリットというと、多くの方が馴染み深い所得控除である配偶者控除や配偶者特別控除であると思います。
相続に関しても、配偶者は、予定被相続人の相続対策及び相続発生時には、身の回りのことだけでなく税法上の制度的にも強い味方になってくれるでしょう。
当記事では、配偶者がいることで税法上どのようなメリットがあるかご紹介します。
配偶者のいる人が使える税法上の制度 ~所得控除と専従者~ も併せてご覧ください。
【配偶者の相続税の税額軽減】
・配偶者の相続税額の軽減
1.制度の概要
配偶者の税額の軽減とは、被相続人の配偶者が遺産分割や遺贈により実際に取得した正味の遺産額が、次の金額のどちらか多い金額までは配偶者に相続税はかからないという制度です。
(注) この制度の対象となる財産には、仮装又は隠蔽されていた財産は含まれません。
⑴ 1億6千万円
⑵ 配偶者の法定相続分相当額
この配偶者の税額軽減は、配偶者が遺産分割などで実際に取得した財産を基に計算されることになっています。
したがって、相続税の申告期限までに分割されていない財産は税額軽減の対象になりません。
ただし、相続税の申告書又は更正の請求書に「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付した上で、申告期限までに分割されなかった財産について申告期限から3年以内に分割したときは、税額軽減の対象になります。
なお、相続税の申告期限から3年を経過する日までに分割できないやむを得ない事情があり、税務署長の承認を受けた場合で、その事情がなくなった日の翌日から4か月以内に分割されたときも、税額軽減の対象になります。
2.配偶者の税額軽減を受けるための手続
⑴ 税額軽減の明細を記載した相続税の申告書又は更正の請求書に戸籍謄本と遺言書の写しや遺産分割協議書の写しなど、配偶者の取得した財産が分かる書類を添えて提出してください。
遺産分割協議書の写しには印鑑証明書も添付する必要があります。
⑵ 相続税の申告後に行われた遺産分割に基づいて配偶者の税額軽減を受ける場合は、分割が成立した日の翌日から4か月以内に更正の請求という手続をする必要があります。
国税庁 配偶者の税額の軽減 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4158.htm(2020年4月2日)
配偶者による税額軽減の制度でも、相続税の節税対策としても、特に大きな節税効果のあるものです。
この制度により、被相続人が余程の大きな財産を持っていなければ配偶者に相続税がかかることはないでしょう。
配偶者の相続税の税額軽減を適用するにあたって、以下の押さえておきたい点があります。
まず、相続財産の1億6千万円と法定相続分のどちらか多い金額までが相続税がかからないということです。
この相続税のかからない金額は配偶者の取得分だけである、ということに注意してください。
相続税の計算方法として、まず、相続財産を法定相続分で遺産分割したと仮定して相続税総額を決定します。
決定された相続税総額を実際に遺産分割で取得した財産額で按分した金額が各人の支払うべき相続税の金額になります。
つまり、単純に配偶者がいることで被相続人の財産の1億6千万円と法定相続分のどちらか多い金額まで相続税がゼロになるということではなく、按分後の配偶者が取得した分の相続税が軽減されるということです。
一例として、以下のケースの場合
相続財産 5800万円
配偶者1人・子2人(長男・次男)
法定相続分は、配偶者:長男:長女 で 2:1:1
相続財産を法定相続分で遺産分割したと仮定して決定された相続税総額 100万円
実際の遺産分割は、配偶者:長男:長女 で 1:2:1
相続税は、0円:50万円:25万円 となります。
実際の遺産分割で配偶者がすべて取得する場合、相続税はゼロになります。
配偶者が取得することが一番の節税になることは間違いありませんが、二次相続等により配偶者が亡くなられた際の相続税が多くなってしまう場合もありますので、目前の節税だけにとらわれずその後のことも考慮した上で遺産分配することがよいでしょう。
また、配偶者の税額軽減には申告要件があります。
この制度を適用することにより納付税額がない場合でも、申告しなければ特例の適用が受けられないということです。
期限後申告や修正申告でも配偶者の税額軽減は適用を受けることができますが、申告期限内に遺産分割を終えていないと適用を受けることができないので注意してください。
正しい申告をすることが大前提なので詳しくは触れませんが、仮装・隠蔽された財産については、配偶者の軽減措置は適用されません。
適用できない財産は、仮装・隠蔽された財産についてのみになりますが、これはすべての財産が適用できなくなるとすると罰則として重過ぎるということだと考えられます。
・配偶者へ居住用の不動産を贈与した際の控除
1.特例の概要
婚姻期間が20年以上の夫婦の間で、居住用不動産又は居住用不動産を取得するための金銭の贈与が行われた場合、基礎控除110万円のほかに最高2,000万円まで控除(配偶者控除)できるという特例です。
2.特例を受けるための適用要件
⑴ 夫婦の婚姻期間が20年を過ぎた後に贈与が行われたこと
⑵ 配偶者から贈与された財産が、自分が住むための国内の居住用不動産であること又は居住用不動産を取得するための金銭であること
⑶ 贈与を受けた年の翌年3月15日までに、贈与により取得した国内の居住用不動産又は贈与を受けた金銭で取得した国内の居住用不動産に、贈与を受けた者が現実に住んでおり、その後も引き続き住む見込みであること
(注) 配偶者控除は同じ配偶者からの贈与については一生に一度しか適用を受けることができません
3.適用を受けるための手続
次の書類を添付して、贈与税の申告をすることが必要です。
⑴ 財産の贈与を受けた日から10日を経過した日以後に作成された戸籍謄本又は抄本
⑵ 財産の贈与を受けた日から10日を経過した日以後に作成された戸籍の附票の写し
⑶ 居住用不動産の登記事項証明書その他の書類で贈与を受けた人がその居住用不動産を取得したことを証するもの
上記の書類のほかに、金銭ではなく居住用不動産の贈与を受けた場合は、その居住用不動産を評価するための書類(固定資産評価証明書など)が必要となります。
国税庁 夫婦の間で居住用の不動産を贈与したときの配偶者控除 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/zoyo/4452.htm(2020年4月2日)
配偶者控除の対象となる居住用不動産の範囲
婚姻期間20年以上の夫婦の間で居住用不動産の贈与が行われ、一定の条件に当てはまる場合には贈与税の配偶者控除が受けられます。
この場合の居住用不動産は、贈与を受けた配偶者が居住するための国内の家屋又はその家屋の敷地です。
居住用家屋の敷地には借地権も含まれます。
なお、居住用家屋とその敷地は一括して贈与を受ける必要はありません。
したがって、居住用家屋のみあるいは居住用家屋の敷地のみ贈与を受けた場合も配偶者控除を適用できます。
この居住用家屋の敷地のみの贈与について配偶者控除を適用する場合には、次のいずれかに当てはまることが必要です。
⑴ 夫又は妻が居住用家屋を所有していること。
⑵ 贈与を受けた配偶者と同居する親族が居住用家屋を所有していること。
この具体的な事例を二つ説明します。
イ 妻が居住用家屋を所有していて、その夫が敷地を所有しているときに妻が夫からその敷地の贈与を受ける場合
ロ 夫婦と子供が同居していて、その居住用家屋の所有者が子供で敷地の所有者が夫であるときに、妻が夫からその敷地の贈与を受ける場合
また、居住用家屋の敷地の一部の贈与であっても、配偶者控除を適用できます。
なお、居住用家屋の敷地が借地権のときに金銭の贈与を受けて、地主から底地を購入した場合も、居住用不動産を取得したことになり、配偶者控除を適用できます。
国税庁 配偶者控除の対象となる居住用不動産の範囲 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/zoyo/4455.htm(2020年4月2日)
配偶者の居住用財産を贈与した際の控除を適用するにあたって、以下の押さえておきたい点があります。
まず、居住用財産を贈与した場合、贈与税の計算上の基礎控除110万円に合わせて配偶者控除2000万円が適用できます。
これにより20年以上の婚姻関係がある配偶者への居住用財産の贈与に使える控除額は、最大2110万円になります。
ただし、居住用財産を贈与された際に使える2000万円の控除額は、あくまで居住用財産の金額から差し引くことができる金額であり、居住用財産以外の財産の贈与については、基礎控除110万円の範囲で差し引くことになります。
確認になりますが、贈与税とは、財産を受け取った人に発生するものであり、財産を譲り渡した人に発生するものではありませんので注意してください。
また、控除が適用できる居住用財産とは、居住用財産そのものだけではなく、居住用財産の購入資金も含まれています。
居住用財産は、居住用の建物だけでなく、居住用の建物が建てられている土地も含まれます。
・今現在、住んでいる居住用の建物や土地があり、今後も住み続ける予定のもの
・今後住み続ける予定の居住用の建物や土地を購入するために、資金の贈与を受けたもの
に当てはまる財産は、配偶者控除の対象となる居住用財産となります。
この制度を適用した節税方法について、配偶者へ居住用財産を贈与したい場合には当然適用すべき制度です。
配偶者の居住用財産の贈与の特例は、相続対策においてもこの制度を適用することができれば、将来の相続税を大幅に減らすことができるでしょう。
生前対策としては、まず、真っ先に検討するべきことの一つとなります。
配偶者の居住用剤損の贈与の特例を使った相続対策は、一般的には収入が多いであろう夫から妻へ贈与するケースが多いと思われますので、居住用財産を所有する夫から妻へ贈与するケースを例にとります。
まず、財産を贈与する夫が贈与を受ける妻よりも総財産が多いことが条件にあります。
夫の財産だけを考えれば、財産が夫から妻へ移動するため夫が亡くなった際の相続税は、当然少なくなります。
しかし、夫より妻のほうが多くの財産を持っているであれば、相続税率は累進課税であるため、妻が亡くなった際はより高い税率で課税される可能性があります。
つまり、夫の相続税率よりも妻の相続税率が低い場合に節税効果を見込める場合が多いです。
次に、居住用財産を所有する夫に将来の相続税の発生が見込まれることが条件にあります。
夫も妻も相続税が発生する心配がないのであれば、基本的には贈与する必要はないでしょう。
上記の、相続における配偶者の税額の軽減(1億6千万円 又は 法定相続相当額 まで無税)などの特例の適用や遺産分割により、相続税が発生しない場合も、基本的には贈与する必要はありません。
配偶者の居住用剤損の贈与の特例を使った相続対策についての注意点として、登記費用が挙げられます。
建物や土地などの不動産は、贈与や譲渡、相続などにより所有者が変わる場合、所有権の申請手続きである登記をします。
その際、不動産取得税や登録免許税という登記費用が発生します。
贈与や譲渡における登記費用は、以下の通りです。
・不動産取得税 固定資産税評価額 × 3%(居住用以外の建物は、4%)
※ 平成33年3月31日までに取得した宅地又は宅地比準土地の場合は、1.5%
・登録免許税 2%
しかし、相続における登記費用は、以下の通りです。
・不動産取得税 ゼロ
・登録免許税 0.4%
このように、贈与や譲渡による不動産の取得は、相続による不動産の取得より大変不利になっています。
しかし、相続税の発生が見込まれる夫の財産を少なくすることができれば、登記費用以上の節税効果があるでしょう。
夫の居住用不動産が控除額以上ある場合でも、持分を分割することで財産を少なくすることもできるため、とても活用できる制度だと考えます。
また、居住用財産の購入資金を贈与する場合には、登記費用は変わりませんので積極的に活用しましょう。
財産状態を考慮してどれくらいの相続税が発生するかにより、贈与するほうがいいのか、相続させるほうがいいのか、検討してください。
【まとめ】
配偶者の持つ財産は、名義は違えど二人で所有する共用財産としての性格もあるため、税法上このような特例があります。
また、苦楽を共にしている、一心同体ともいえるかけがえのない存在であるため、税法上も強くは出られないものなのだと思われます。
これらは、配偶者がいる人だけが使える制度になりますので、共に築き上げてきた財産を配偶者や子にできるだけ多く残せるようできることがいいことであると考えます。
〈こちらの記事は、2018/4/3更新記事を参考に作成しています。〉