配偶者のいる人が使える税法上の制度 ~所得控除と専従者~

 配偶者がいることによる税法上のメリットというと、多くの方が馴染み深い所得控除である配偶者控除や配偶者特別控除であると思います。

 相続に関しても、配偶者は、予定被相続人の相続対策及び相続発生時には、身の回りのことだけでなく税法上の制度的にも強い味方になってくれるでしょう。

 当記事では、配偶者がいることで税法上どのようなメリットがあるかご紹介します。

  配偶者のいる人が使える税法上の制度 ~相続税と贈与税~ も併せてご覧ください。

【配偶者による所得控除】

・配偶者控除

 1.配偶者控除の概要
 納税者に所得税法上の控除対象配偶者がいる場合には、一定の金額の所得控除が受けられます。これを配偶者控除といいます。

 2.控除対象配偶者となる人の範囲
 控除対象配偶者とは、その年の12月31日の現況で、次の四つの要件のすべてに当てはまる人です。
 なお、平成30年分以後は、控除を受ける納税者本人の合計所得金額が1,000万円を超える場合は、配偶者控除は受けられません。
 ⑴ 民法の規定による配偶者であること(内縁関係の人は該当しません。)。
 ⑵ 納税者と生計を一にしていること。
 ⑶ 年間の合計所得金額が38万円以下 (令和2年分以降は48万円以下)であること。
  (給与のみの場合は給与収入が103万円以下)
 ⑷ 青色申告者の事業専従者としてその年を通じて一度も給与の支払を受けていないこと又は白色申告者の事業専従者でないこと。

国税庁 配偶者控除 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1191.htm(2020年3月30日)

 

 配偶者控除を受けるためには対象配偶者がいることが条件としてあります。

 

 ⑴ 民法の規定による配偶者であること(内縁関係の人は該当しません。)。

 法律上、正式な夫婦であるとされる配偶者である必要があります。

 内縁関係とは、婚姻の意思があり社会的に夫婦として認められる事実婚のような関係をいいますが、民法上認められる婚姻届の提出がある配偶者のみを納税者が配偶者控除を受けることができる対象配偶者としています。

 

 ⑵ 納税者と生計を一にしていること。

 「生計を一にする」という要件は、扶養控除など他の制度にも出てくるものですが、その意義は、共に同じ生活資金を使って生活しているということです。

 なお、同居の要件はありません。

 

 ⑶ 年間の合計所得金額が38万円以下 (令和2年分以降は48万円以下) であること。(給与のみの場合は給与収入が103万円以下)

 配偶者控除が使えるかどうか検討されてる方のほとんどは、配偶者がパートなどの給与所得のみになると思われますが、所得金額38万円とは、「103万の壁」と言われる所得税が課税され、配偶者控除・扶養控除が外れてしまう給与収入103万円から給与所得控除の最低額である65万円 (令和2年分以降は55万円以下) を差し引いた残りの金額になります。

 それに、誰もが受けられる基礎控除38万円 (令和2年分以降は48万円以下) を差し引いたものが最終的な所得になります。

 給与所得控除の最低額65万円 (令和2年分以降は55万円以下) を差し引くことができるのは給与所得のみあるため、個人事業主のような給与所得者ではない方、もしくは、給与所得以外の収入がある方は、注意してください。

 

 ⑷ 青色申告者の事業専従者としてその年を通じて一度も給与の支払を受けていないこと又は白色申告者の事業専従者でないこと。

 青色事業専従者給与に関する届出書を提出し、一定の条件を満たすと、事業者が配偶者を含む家族に支払う給料が経費として認められます。

 一方で、白色申告においても専従者控除があります。

 つまりは、青色事業専従者給与や専従者控除がある場合、配偶者控除や扶養控除との併用は認めないということです。

 

 配偶者控除による所得控除の金額は、以下の通りです。

  

 一般の配偶者控除

 ・納税者の合計所得が900万円以下  38万円

 ・納税者の合計所得が900万円超950万円以下  26万円

 ・納税者の合計所得が950万円超1,000万円以下  13万円

 ・納税者の合計所得が1,000万円超  0円

 

 老人配偶者控除

 ・納税者の合計所得が900万円以下  48万円

 ・納税者の合計所得が900万円超950万円以下  32万円

 ・納税者の合計所得が950万円超1,000万円以下  16万円

 ・納税者の合計所得が1,000万円超  0円

 

 単純計算となりますが、合計所得1000万円の人の場合、平成30年以後は所得税率33%(復興特別所得税は除く)と住民税率10%を併せて、約16万円の負担増になります。

 

・配偶者特別控除

 ⑶ 年間の合計所得金額が38万円以下 (令和2年分以降は48万円以下) であること。(給与のみの場合は給与収入が103万円以下)

 により、配偶者控除が受けられない場合でも、配偶者特別控除が受けられることがあります。

 

 1.配偶者特別控除の概要

 配偶者に38万円 (令和2年分以降は48万円) を超える所得があるため配偶者控除の適用が受けられないときでも、配偶者の所得金額に応じて、一定の金額の所得控除が受けられる場合があります。これを配偶者特別控除といいます。
 なお、配偶者特別控除は夫婦の間で互いに受けることはできません。

 2.配偶者特別控除を受けるための要件

 ⑴ 控除を受ける人のその年における合計所得金額が1,000万円以下であること。
 ⑵ 配偶者が、次の五つの要件すべてに当てはまること。
  イ 民法の規定による配偶者であること(内縁関係の人は該当しません)。
  ロ 控除を受ける人と生計を一にしていること。
  ハ その年に青色申告者の事業専従者としての給与の支払を受けていないこと又は白色申告者の事業専従者でないこと。  
  ニ 年間の合計所得金額が38万円超123万円未満 (令和2年分以降は48万円を超え133万円以下) であること。

国税庁 配偶者特別控除 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1191.htm(2020年3月30日)

 

 配偶者特別控除は、現行の配偶者控除と違い、その控除額が逓減していき最終的には無くなってしまうところにあります。

 配偶者特別控除による所得控除の金額は、以下の通りです。

 納税者の合計所得が900万円以下

・配偶者の合計所得38万円超85万円以下  38万円
・配偶者の合計所得85万円超90万円以下  36万円
・配偶者の合計所得90万円超95万円以下  31万円
・配偶者の合計所得95万円超100万円以下  26万円
・配偶者の合計所得100万円超105万円以下  21万円
・配偶者の合計所得105万円超110万円以下  16万円
・配偶者の合計所得110万円超115万円以下  11万円
・配偶者の合計所得115万円超120万円以下  6万円
・配偶者の合計所得120万円超123万円以下  3万円

 

 納税者の合計所得が900万円超950万円以下

・配偶者の合計所得38万円超85万円以下  26万円
・配偶者の合計所得85万円超90万円以下  24万円
・配偶者の合計所得90万円超95万円以下  21万円
・配偶者の合計所得95万円超100万円以下  18万円
・配偶者の合計所得100万円超105万円以下  14万円
・配偶者の合計所得105万円超110万円以下  11万円
・配偶者の合計所得110万円超115万円以下  8万円
・配偶者の合計所得115万円超120万円以下  4万円
・配偶者の合計所得120万円超123万円以下  2万円

 

 納税者の合計所得が950万円超1,000万円以下

・配偶者の合計所得38万円超85万円以下  13万円
・配偶者の合計所得85万円超90万円以下  12万円
・配偶者の合計所得90万円超95万円以下  11万円
・配偶者の合計所得95万円超100万円以下  9万円
・配偶者の合計所得100万円超105万円以下  7万円
・配偶者の合計所得105万円超110万円以下  6万円
・配偶者の合計所得110万円超115万円以下  4万円
・配偶者の合計所得115万円超120万円以下  2万円
・配偶者の合計所得120万円超123万円以下  1万円

(令和2年分以降は、基礎控除の金額が10万円引き上げられることから、配偶者特別控除による所得控除の金額を算定する基礎となる配偶者の合計所得も10万円引き上げられます。 )

 

 配偶者特別控除についても高所得者層は負担増になりますが、配偶者の合計所得については共働きの推進により制度の拡充が図られているため、配偶者の所得が給与所得のみであれば、配偶者特別控除を受けられる給与収入の限度額は、年間141万円→現行の201万円になりました。

 

 補足となりますが、配偶者の合計所得によっては配偶者控除、配偶者特別控除以外にも 以下のように様々な義務・控除の適用外となる点もありますので注意してください。

100万円の壁 → 住民税の支払義務がある
103万円の壁 → 所得税の支払義務がある
106万円の壁 → 社会保険の加入義務の可能性
130万円の壁 → 納税者の社会保険の扶養から外れてしまう
150万円の壁 → 配偶者特別控除の最高額控除が受けられない(納税者の合計所得が1000万円以下の場合)
201万円の壁 → 配偶者特別控除が受けられない(納税者の合計所得が1000万円以下の場合)

・青色事業専従者給与と専従者控除

 ⑷ 青色申告者の事業専従者としてその年を通じて一度も給与の支払を受けていないこと又は白色申告者の事業専従者でないこと。

 により、配偶者控除が受けられない場合でも、事業を営んでいる青色申告者の配偶者で申告者から給与を受け取ってる、もしくは、事業を営んでいる白色申告者の配偶者 である場合には、控除を受けられることがあります。

 

 1.青色事業専従者給与と事業専従者控除の概要
 生計を一にしている配偶者その他の親族が納税者の経営する事業に従事している場合、納税者がこれらの人に給与を支払うことがあります。これらの給与は原則として必要経費にはなりませんが、次のような特別の取扱いが認められています。

 ⑴ 青色申告者の場合
 一定の要件の下に実際に支払った給与の額を必要経費とする青色事業専従者給与の特例
 ⑵ 白色申告者の場合
 事業に専ら従事する家族従業員の数、配偶者かその他の親族かの別、所得金額に応じて計算される金額を必要経費とみなす事業専従者控除の特例
 (注) 青色申告者の事業専従者として給与の支払を受ける人又は白色申告者の事業専従者である人は、控除対象配偶者や扶養親族にはなれません。

 2.青色事業専従者給与
 青色事業専従者給与として認められる要件は、次のとおりです。

 ⑴ 青色事業専従者に支払われた給与であること。
 青色事業専従者とは、次の要件のいずれにも該当する人をいいます。
  イ 青色申告者と生計を一にする配偶者その他の親族であること。
  ロ その年の12月31日現在で年齢が15歳以上であること。
  ハ その年を通じて6月を超える期間(一定の場合には事業に従事することができる期間の2分の1を超える期間)、その青色申告者の営む事業に専ら従事していること。
 ⑵ 「青色事業専従者給与に関する届出書」を納税地の所轄税務署長に提出していること。
 提出期限は、青色事業専従者給与額を算入しようとする年の3月15日(その年の1月16日以後、新たに事業を開始した場合や新たに専従者がいることとなった場合には、その開始した日や専従者がいることとなった日から2か月以内)までです。
 この届出書には、青色事業専従者の氏名、職務の内容、給与の金額、支給期などを記載することになっています。
 また、専従者が増える場合や、給与を増額する場合など、届出の内容を変更するためには、「青色事業専従者給与に関する変更届出書」を遅滞なく納税地の所轄税務署長に提出していること。
 ⑶ 届出書に記載されている方法により支払われ、しかもその記載されている金額の範囲内で支払われたものであること。
 ⑷ 青色事業専従者給与の額は、労務の対価として相当であると認められる金額であること。
 なお、過大とされる部分は必要経費とはなりません。

 3.事業専従者控除
 事業専従者控除額は、次のイ又はロの金額のどちらか低い金額です。
  イ 事業専従者が事業主の配偶者であれば86万円、配偶者でなければ専従者一人につき50万円
  ロ この控除をする前の事業所得等の金額を専従者の数に1を足した数で割った金額
   白色事業専従者控除を受けるための要件は、次のとおりです。
    ⑴ 白色申告者の営む事業に事業専従者がいること。
     事業専従者とは、次の要件の全てに該当する人をいいます。
      イ 白色申告者と生計を一にする配偶者その他の親族であること。
      ロ その年の12月31日現在で年齢が15歳以上であること。
      ハ その年を通じて6月を超える期間、その白色申告者の営む事業に専ら従事していること。
    ⑵ 確定申告書にこの控除を受ける旨やその金額など必要な事項を記載すること。

国税庁 青色事業専従者給与と事業専従者控除 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2075.htm (2020年3月30日)

 適用するには、要件をすべて満たさなければならないため複雑な制度に思われるかもしれませんが、押さえるべきポイントは以下の点です。

 青色事業専従者給与

 ・青色専給の届出書を提出する(期限に注意)

 ・対象の親族が6ヶ月以上(1/2以上)従業員と同様に働いている

 ・給料が労働の対価として見合っている金額である

 

 白色専従者控除

 ・対象の親族が6ヶ月以上(1/2以上)従業員と同様に働いている

 ただし、二重控除になるため青色事業専従者給与や専従者控除がある場合は、配偶者控除や扶養控除との併用は認められません。

 個人事業主にとって、専従者給与・控除は、上手く使うことでとても有利に経営を進めることができます。

 青色事業専従者給与は、その対価性が認められる限り、親族に支給した金額すべてを経費にできるため事業主の所得を減らすことができますし、結果として金銭が事業者から専従者に移動しただけのことになります。

 また、白色専従者控除はその要件が少なく、事業に従事していることで大きな控除を受けることができます。

 専従者控除に限っては、配偶者の控除額がその他親族より大きくなります。

 

【まとめ】

 給与所得があるサラリーマンなどの方も、事業を営んでいる経営者の方も、配偶者がいることにより課税所得を減らすことができます。

 配偶者控除や配偶者特別控除については、配偶者の所得により控除額が決まりますので、配偶者による働き損にならないよう調整が必要な場合もあります。

 青色事業専従者給与については、世帯としてみると金銭を減らすことなく経費経費計上することができますので、有効に使うことができれば税金を大きく減らすことができるでしょう。

 白色専従者控除については、白色申告の手続きを含み若干は簡便であるというメリットはありますが、やはり青色申告を含む専従者給与のほうが金額的メリットは非常に大きいため、できる限り青色申告を選択していくことが良いと考えます。

 

 基本的な所得の控除額の話になりますが、例として配偶者控除38万円の所得控除など課税所得を減らす金額について、税金が38万円減って38万円得をするという意味ではありませんので注意してください。

 所得控除や経費計上など課税所得を減らすことにより得をする金額は、

 ・ 所得税率を乗じた額

 ・ 住民税率を乗じた額

 ・ 国民健康保険

 などの所得金額を課税基礎として決定されるものになります。

 

〈こちらの記事は、2018/3/19更新記事を参考に作成しています。〉