小規模宅地等の特例による宅地等の相続
相続財産のなかでも不動産は財産価値の高いものであり、特に評価額の高い宅地は、その相続税に大きく影響します。
そのような財産である宅地の価値(評価額)は、小規模宅地等の特例が適用することができれば最大8割減にすることができます。
この特例は、適用条件の規定がとても難しく、その節税効果の大きさから、適用の可否や計算方法などに注意する必要があります。
生前の相続対策を行う際にも、ご自身の財産価値の把握をするために必要としますのでご確認ください。
【小規模宅地等の特例の概要】
・小規模宅地等の特例について
特例の概要
個人が、相続又は遺贈により取得した財産のうち、その相続の開始の直前において被相続人等の事業の用に供されていた宅地等又は被相続人等の居住の用に供されていた宅地等のうち、一定の選択をしたもので限度面積までの部分(以下「小規模宅地等」といいます。)については、相続税の課税価格に算入すべき価額の計算上、一定の割合を減額します。この特例を小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例といいます。
なお、相続開始前3年以内に贈与により取得した宅地等や相続時精算課税に係る贈与により取得した宅地等については、この特例の適用を受けることはできません。
国税庁 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4124.htm(2020年8月25日)
この制度が存在する背景としては、相続財産の中でも財産価値の高い土地などの不動産が大きい割合を占めているケースが多いためです。
相続税が発生するような人は、世帯主や経営者などであることがほとんどであり、相続人が宅地等の土地を相続することで発生する多額の相続税を納めるために土地・自宅・会社などを売却せざるを得ないことを防ぐため、つまりは相続人を保護するための減額措置ということになります。
宅地など地目区分については 相続・贈与おける土地の評価について ~ 地目区分 ~ を併せてご覧ください。
なお、3年内贈与財産と相続時精算課税財産は税金計算上で相続財産に含めるものの、過去に贈与が済んだ財産であるため被相続人の財産とはならず、小規模宅地等の特例の適用はできないことになっています。
この制度が適用される場合は、以下のように相続税評価額が減額されます。
① 特定居住用宅地等に該当する宅地等 330㎡まで 80%減
② 特定事業用宅地等に該当する宅地等 400㎡まで 80%減
③ 特定同族会社事業用宅地等に該当する宅地等 400㎡まで 80%減
④ 貸付事業用宅地等に該当する宅地等 200㎡まで 50%減
相続時の評価額が最大8割引きの金額になってしまうという、相続の特例の中でも非常に大きな節税効果がある制度になります。
ただし、その節税効果が大きいため適用するための要件が細かく定められており、租税回避行為を防ぐため適用の可否も厳しく調べられるでしょう。
宅地を所持されている方も、今後所有される予定の方も、制度の対象財産になるかどうかご確認ください。
・利用区分と適用条件
適用条件等については非常に多くの規定があるため、重要ポイントのみ解説します。
① 特定居住用宅地等に該当する宅地等
相続開始の直前において被相続人等の居住の用に供されていた宅地等で、次の区分に応じ、それぞれに掲げる要件に該当する被相続人の親族が相続又は遺贈により取得したものをいいます(次表の区分に応じ、それぞれに掲げる要件に該当する部分で、それぞれの要件に該当する被相続人の親族が相続又は遺贈により取得した持分の割合に応ずる部分に限られます。)。なお、その宅地等が2以上ある場合には、主としてその居住の用に供していた一の宅地等に限ります。
特定居住用宅地等の要件
被相続人の居住の用に供されていた宅地等
⑴ 被相続人の配偶者
「取得者ごとの要件」はありません。
⑵ 被相続人と同居していた親族
相続開始の時から相続税の申告期限まで、引き続きその家屋に居住し、かつ、その宅地等を相続税の申告期限まで有している人
⑶ 被相続人と同居していない親族
下記をすべて満たす場合
・相続開始の時において、被相続人が一時居住被相続人、非居住被相続人又は非居住外国人であり、かつ、取得者が一時居住者又は日本国籍及び日本国内に住所を有していない人ではないこと。
・被相続人に配偶者がいないこと
・被相続人に、相続開始の直前においてその被相続人の居住の用に供されていた家屋に居住していた親族でその被相続人の相続人(相続の放棄があった場合には、その放棄がなかったものとした場合の相続人)である人がいないこと
・相続開始前3年以内に日本国内にあるその人又はその人の配偶者の所有する家屋(相続開始の直前において被相続人の居住の用に供されていた家屋を除きます。)に居住したことがないこと
・その宅地等を相続税の申告期限まで有していること
被相続人と生計を一にする被相続人の親族の居住の用に供されていた宅地等
⑴ 被相続人の配偶者
「取得者ごとの要件」はありません。
⑵ 被相続人と生計を一にしていた親族
相続開始の時から相続税の申告期限まで、引き続きその家屋に居住し、かつ、その宅地等を相続税の申告期限まで有している人
(一部編集、省略)
国税庁 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4124.htm(2020年8月25日)
特定居住用宅地等とは、被相続人の自宅の土地を指すことが多いです。
補足として、土地の上に存在する借地権などの権利も対象となります。
被相続人と生計を一にしているような親族、例えば一緒に住んでいる配偶者や子には、制度の適用ができます。
対象になるかどうか注意しなければならないケースは、被相続人と一緒に住んでいない子や孫、兄弟が自宅の土地を相続することです。
まず、生活費や療養費を親族が送っていた場合などは「生計を一にする親族」に該当するため、制度の適用ができます。
次に、「生計を一にする親族でもなく」同居もしていない子や孫の場合は、制度を適用するための条件があります。
ポイントは、以下のとおりです。
・被相続人に配偶者がいない
・被相続人と同居する親族がいない
・相続する人がマイホームを所有したことがない
・3年以内に親族が所有する家に居住したことがない人
・宅地等を相続税の申告期限まで所有していること
つまり、親などの被相続人が単身で住んでいて、相続する子や孫が親族のものではないマンション等に住んでいる場合は、いわゆる「家なき子」に該当し、制度が適用できるということです。
また、二世帯住宅の宅地や、被相続人が老人ホームなどに入居した際に存する宅地も、特定居住用宅地等として同様に扱われます。
② 特定事業用宅地等に該当する宅地等
相続開始の直前において被相続人等の事業(貸付事業を除きます。以下同じです。)の用に供されていた宅地等で、次の表の区分に応じ、それぞれに掲げる要件の全てに該当する被相続人の親族が相続又は遺贈により取得したものをいいます(次の表の区分に応じ、それぞれに掲げる要件の全てに該当する部分で、それぞれの要件に該当する被相続人の親族が相続又は遺贈により取得した持分の割合に応ずる部分に限られます。)。
特定事業用宅地等の要件
被相続人の事業の用に供されていた宅地等
・その宅地等の上で営まれていた被相続人の事業を相続税の申告期限までに引き継ぎ、かつ、その申告期限までその事業を営んでいること。
・その宅地等を相続税の申告期限まで有していること。
被相続人と生計を一にしていた被相続人の親族の事業の用に供されていた宅地等
・相続開始の直前から相続税の申告期限まで、その宅地等の上で事業を営んでいること。
・その宅地等を相続税の申告期限まで有していること。
(一部編集、省略)
国税庁 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4124.htm(2020年8月25日)
特定事業用宅地等は、主に被相続人が事業を行っていた土地を指すことが多いです。
ただし、貸し駐車場やアパート経営などの貸付事業は含まれません。
被相続人又はその親族が事業を行っていた宅地について特例を適用する要件として、
・事業承継要件
・保有継続要件
があります。
事業承継要件については、被相続人の事業を引き継ぐこと、もしくは事業を継続することです。
保有継続要件については、宅地等を相続税の申告期限まで所有していることです。
この特例を適用するケースでは、事業を営んでいる店舗と住宅が同一であることも多くあります。
その場合、特定居住用宅地等と特定事業用宅地等に分けて特例を適用することとなります。
また、建物所有者と賃借関係にある場合には、貸付事業となることもあり、特定事業用宅地等の特例が適用できない場合もあります。
③ 特定同族会社事業用宅地等に該当する宅地等
相続開始の直前から相続税の申告期限まで一定の法人の事業(貸付事業を除きます。以下同じです。)の用に供されていた宅地等で、次表の要件の全てに該当する被相続人の親族が相続又は遺贈により取得したものをいいます(一定の法人の事業の用に供されている部分で、次表に掲げる要件の全てに該当する被相続人の親族が相続又は遺贈により取得した持分の割合に応ずる部分に限られます。)。
なお、一定の法人とは、相続開始の直前において被相続人及び被相続人の親族等が法人の発行済株式の総数又は出資の総額の50%超を有している場合におけるその法人(相続税の申告期限において清算中の法人を除きます。)をいいます。
特定同族会社事業用宅地等の要件
一定の法人の事業の用に供されていた宅地等
・相続税の申告期限においてその法人の役員(法人税法第2条第15号に規定する役員(清算人を除きます。)をいいます。)であること。
・その宅地等を相続税の申告期限まで有していること
(一部編集、省略)
国税庁 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4124.htm(2020年8月25日)
特定同族会社事業用宅地等は、主に被相続人その他親族で支配する法人が事業を行っていた土地を指すことが多いです。
特定同族会社とは、被相続人その他親族が発行済株式の50%超、又は、出資金の50%超を有している会社になります。
ただし、貸し駐車場やアパート経営などの貸付事業は含まれません。
特定同族会社が事業を行っていた宅地について特例を適用する要件として、
・法人役員要件
・保有継続要件
があります。
法人役員要件については、相続人が相続税の申告期限に役員でいることです。
保有継続要件については、宅地等を相続税の申告期限まで所有していることです。
注意点として、事業用として認定されるためには、適正な家賃が発生している必要があります。
また、建物所有者と賃借関係にある場合には、貸付事業となることもあり、特定同族会社事業用宅地等の特例が適用できない場合もあります。
④ 貸付事業用宅地等に該当する宅地等
相続開始の直前において被相続人等の貸付事業の用に供されていた宅地等で、次表の区分に応じ、それぞれに掲げる要件の全てに該当する被相続人の親族が相続又は遺贈により取得したものをいいます(次表の区分に応じ、それぞれに掲げる要件の全てに該当する部分で、それぞれの要件に該当する被相続人の親族が相続又は遺贈により取得した持分の割合に応ずる部分に限られます。)。
貸付事業用宅地等の要件
被相続人の貸付事業の用に供されていた宅地等
・その宅地等に係る被相続人の貸付事業を相続税の申告期限までに引き継ぎ、かつ、その申告期限までその貸付事業を行っていること。
・その宅地等を相続税の申告期限まで有していること。
被相続人と生計を一にしていた被相続人の親族の貸付事業の用に供されていた宅地等
・相続開始の直前から相続税の申告期限まで、その宅地等に係る貸付事業を行っていること。
・その宅地等を相続税の申告期限まで有していること。
(一部編集、省略)
国税庁 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4124.htm(2020年8月25日)
貸付事業用宅地等は、主に被相続人が貸し駐車場やアパート経営に使用しているような土地を指すことが多いです。
被相続人又はその親族が事業を行っていた宅地について特例を適用する要件として、
・事業承継要件
・保有継続要件
があります。
事業承継要件については、被相続人の事業を引き継ぐこと、もしくは事業を継続することです。
保有継続要件については、宅地等を相続税の申告期限まで所有していることです。
この特例は、他の事業用宅地等の特例に比べて限度面積及び減額割合が小さく設定されていますので、建物所有者と賃借関係にあるケースなどでは注意してください。
また、青空駐車場と呼ばれるような宅地上に建物などがなく、舗装などもされていない土地を貸付目的の駐車場として使用している場合は、貸付事業用宅地等に該当しません。
小規模宅地等の特例を適用するためには、貸付目的の駐車場の場合、アスファルトや砂利を使って舗装されていることが条件にあります。
・注意点と活用方法
まず、小規模宅地等の特例を適用するためには、いずれも、相続税の申告要件があります。
小規模宅地等の特例により、相続税額がゼロとなる場合でも申告が必要になりますので注意してください。
また、被相続人その他親族を中心とした事業を営んでいる場合には、不動産貸付業等以外の事業でも、建物所有者や事業主との賃借関係により限度面積及び減額割合も変わりますので、地代家賃については注意してください。
活用方法として、同様の小規模宅地等の特例に該当する土地が複数ある場合は、限度面積までそれぞれ併用が可能です。
例として、親(被相続人)の住居の土地Aと、生計を一とする子(相続人)の住居の土地Bがある場合のように、① 特定居住用宅地等に該当する宅地等 にあたる宅地であれば、複数の土地でも合わせて330㎡までの面積分が80%減額となります。
また、異なる小規模宅地等の特例に該当する土地が複数ある場合にも、限度面積までそれぞれ併用が可能です。
例として、例として、親(被相続人)の個人事業用の土地Aと、生計を一とする子(相続人)の住居の土地Bがある場合のように、① 特定居住用宅地等に該当する宅地等 にあたる宅地と、② 特定事業用宅地等に該当する宅地等 にあたる宅地があれば、複数の土地でも合わせて730㎡(①の限度面積330㎡ + ②の限度面積400㎡)までの面積分が80%減額となります。
ただし、異なる小規模宅地等の特例を併用する際に、④ 貸付事業用宅地等に該当する宅地等 が含まれる場合は、限度面積の計算が異なりますので注意してください。
その他の相続対策としては、逆贈与による小規模宅地等の特例の適用があります。
逆贈与とは、予定相続人から予定被相続人への贈与を指します。
つまり、相続税を減額するための生前対策として行われる予定被相続人から予定相続人へ通常の贈与とは逆の贈与のことです。
相続対策では、相続人へ贈与を行うことで相続税を減額させることが基本ですが、小規模宅地等の特例による減額割合が贈与税が課されることを加味しても非常に大きいものであるため、逆贈与による贈与税+小規模宅地等の特例による節税効果が、通常の相続よりも大きくなるケースでは、逆贈与は相続対策で有効であるでしょう。
例として、親(被相続人)の宅地Aと、親の所有する宅地A上にある 子(相続人)の所有する賃借用マンションA の2つの不動産が存在する場合、通常の相続では宅地Aは評価額どおりの相続となりますが、生前に子の所有する賃借用マンションAを親へ(逆)贈与することで相続時に宅地Aに対して小規模宅地等の特例を適用することができるため宅地Aの評価額は50%減額することができるということです。
【まとめ】
相続税がかかるような被相続人は、ほとんどのケースで自己所有の住宅・店舗・会社があります。
建物については、完成時より価値が減額していく一方ですが、土地は価値が変わらない、むしろ高騰傾向な地域もあります。
そのような点と、最大80%減額という節税効果から、小規模宅地等の特例は相続における最大の節税制度と言っても過言ではないでしょう。
我々会計事務所の実務においても、相続の際は、まず小規模宅地等の特例が使えるかどうかを調べることが多いと思われます。
この制度の適用により相続税が発生しないケースも非常に多いため、所有している土地が対象となるのか、対象にならない場合でも相続対策として対象財産にするほうがいいのか、是非検討してください。
小規模宅地の特例を検討するような土地をお持ちの方の場合は、ほとんどが土地評価を必要とするでしょう。
土地評価は、複雑であり納税額に大きく影響するため、税理士の経験と実力が問われる重要事項となります。
また、申告要件もありますので、税理士・会計事務所にご相談いただくのがよいでしょう。
〈こちらの記事は、2018/6/1更新記事を参考に作成しています。〉