遺産分割の流れと代償分割を勧める理由 ①
相続人の方々が、最も不安に思われることはおそらく被相続人が残した財産をうまく分けることができるか、ということと、どれだけの費用がかかってしまうのか、ということだと思います。
どのように財産を引き継いでもらいたいのか、その上でできるだけ多くの財産を残せる方法を皆さんと一緒に考えて提案することが会計事務所・税理士の仕事です。
遺産分割にもいくつかの方法があり、必要な手続きもあります。
どのように遺産分割を始めるか、どのように遺産分割してもらうことがよいか、基本的な情報を紹介します。
また、分割方法の中に代償分割という分割方法がありますが、なぜ代償分割を勧めるのか、その活用方法を取り上げたいと思います。
当記事の続きとして 遺産分割の流れと代償分割を勧める理由 ② もあります。
こちらでは、代償分割による税金面でのメリットをご紹介していますので併せてご覧ください。
【遺産分割】
・遺産分割の手続きの流れ
予定被相続人が亡くなられた後の手続きの流れの目安として、以下の順番で行っていきます。
相続 が発生された方へ を併せてご覧ください。
① 相続財産・債務の確認
被相続人の財産・債務を確認します。
遺産分割時だけでなく、相続税申告時にも具体的な財産・債務の種類や金額が必要になるため、簡単な財産目録を作ることをおすすめします。
② 相続人の確認
被相続人の戸籍謄本より、遺産を受け取る権利がある法定相続人を確認します。
遺言により遺贈・死因贈与される人や生前すでに受け取った人も相続人になり得ますので、併せて確認してください。
③ 遺言の確認
遺言の有無と内容を確認します。
遺言書があった場合、証明手続きをするためには検認が必要になりますので家庭裁判所に問い合わせます。
ただし、公証人役場で作成される公正証書遺言の場合は、検認は必要ありません。
検認された遺言書は、財産の名義変更などの証明書類になります。
基本的に遺言に沿って遺産分割をすることになりますが、相続人全員の同意があれば遺言内容の通りに遺産分割する必要はありません。
記載されていない財産がある場合には、その財産のみ遺産分割協議により財産相続人を決定します。
④ 遺産分割協議
相続人の決められてない遺産については、相続人全員で遺産分割協議を行い、各財産の取得者を決定します。
遺産分割協議の内容を、遺産分割協議書にまとめ全員の署名捺印をしたものを各相続人が1通ずつ受け取ります。
相続人全員の署名捺印がある遺産分割協議書は、財産の名義変更などの証明書類になります。
主に遺産分割協議をするケースは、遺言がない場合・遺言に記載されていない財産などがある場合・遺言はあるが相続人全員の意思で再分割したい場合・寄与分や遺留分の有無により再分割する必要がある場合などがあります。
名義変更をする必要がある財産がある場合には、遺言があって遺産分割が適正に行われるケースと、相続人が1人のみのケース以外は、基本的に全員の署名捺印がある遺産分割協議書が必要になります。
⑤ 遺産分割調停・裁判
遺産分割協議を行っても、話がまとまらず各財産の取得者が決定しない場合には、遺産分割調停を行います。
調停のなかでも話がまとまらない場合には、裁判により遺産分割内容が決定されます
ここまで遺産分割が上手く行かないケースでは、多額の費用が掛かり、なにより今後の人間関係が上手くいかなくなってしまうので、被相続人・相続人共に調停・裁判に発展しないような遺産分割を心がけるのがよいでしょう。
・遺産分割の方法
遺産分割は、被相続人の財産を相続人同士で分け合うことです。
この財産というのは、現金や株式だけでなく、建物や土地などの不動産もすべて含まれます。
相続人同士の話し合いや被相続人の意思である遺言に基づいて個々に財産を割り当て、その財産が一定額を超える場合にはそれに応じた相続税を納めます。
まずはじめに、相続人が1人であったり、相続人が1人もいない場合には、遺産分割は必要ありません。
遺産分割は複数人の相続人がいる場合に必要となります。
遺産分割の方法は、主に4つあります。
妻・長男・次男 の3人で
・自宅
・預金ABC
・農地
・車
・その他の財産 を相続により取得する場合
① 現物分割
財産の形を変えることなく、一つ一つの財産を一人一人に振り分ける方法です。
例として、「自宅・預金A・その他一切の財産は妻に、預金B・農地は長男に、預金C・車は次男に」というものです。
遺言だけでなく、遺産分割協議の中でも最も多い方法となります。
メリットとして、財産の形そのままで相続することができるため再取得にかかるロスがなく、最も手続きが簡単です。
デメリットとして、一つ一つの財産価値が異なるため公平な遺産分割が難しくなります。
相続人同士が争うケースというのは、相続財産に価値の差があり話し合いがうまくまとまらないことがほとんどだと思われます。
このため、現物分割を行う際には遺言を残すことが特に必要となります。
② 換価分割
財産を売却してから現金で一人一人に振り分ける方法です。
すべての財産を換価するのではなく、不動産のような細分化できない財産や相続人が誰も欲しがらないような財産だけを換価分割し、残りの財産を現物分割するケースが多いです。
例として、「預金A・その他一切の財産は妻に、預金Bは長男に、預金C・車は次男に、自宅・農地は換価して法定相続分で取得する」というものです。
メリットとして、換価して現金で相続するため公平な相続が可能となります。
また、相続税等の納税資金の確保や不要な財産の処分もできます。
デメリットとして、今現在住んでる自宅や先祖代々の土地など売却したくないような財産がある場合には選択できないということです。
また、売却した際に譲渡益が発生した場合、譲渡所得となり所得税の確定申告が必要となります。
被相続人の財産を換価するため、売却額、経費などの分割金額を遺産分割協議書などに明記することに注意してください。
③ 代償分割
ある財産をある相続人が取得する代わりに他の相続人へ現金を支払う方法です。
例として、「預金A・その他一切の財産は妻に、自宅・預金B・農地は長男に、預金C・車は次男に、長男は自宅・農地を取得する代わりに妻(母)に2000万円、次男(弟)に500万円を支払う」というものです。
メリットとして、財産価値の差分を対価として現金で支払うことができるため公平な相続が可能となり、財産の形そのままで相続することができます。
デメリットとして、対価に見合うだけの現金などの資産が必要になるということです。
メリット・デメリットについて詳しくは、次項で説明します。
④ 共有
ある財産を形そのままで共有名義により分け合う方法です。
一般的には、持分割合を決めて一つの財産を各自保有します。
例として、「預金A・その他一切の財産は妻に、預金Bは長男に、預金C・車は次男に、長男・次男は自宅・農地を1/2ずつ共有名義で相続する」というものです。
メリットとして、相続人同士の裁量で分割できるため公平な相続が可能となり、財産の形そのままで相続することができます。
デメリットとして、共有財産を処分するなどの際には共有者全員の同意が必要になります。
土地や建物などの場合、より多くの登記費用がかかることもあります。
共有というのは、一見平和的な相続方法かと思いますが、昨今では共有名義によりトラブルになることが多く、やはり一時的な解決や相続の先延ばしの目的になってしまいがちです。
共有財産にしてしまうと、相続により引き継いでいくものになることが多いため、自分の財産持分を次世代まで持ち越すのではなく、精算するという意味でも共有にしないほうがいいと考えます。
【代償分割を勧める理由】
・遺産分割方法としての活用
財産を換金することなく、公平な相続を達成することが比較的容易になると考えられます。
財産の形そのままで相続することができ、他の相続人に対して代償金を対価に取得したい財産について説得もしやすくなり、話の折り合いがつきやすくなります。
また、再取得にかかるロスもありません。
やはり自宅など売るわけにはいかない財産があるケースは多くありますので、公平に、かつ納得してもらうためにも有効な手段だと考えます。
・遺産分割手続きの簡略化
具体的には、名義変更などの遺産の取得手続きが簡略されます。
被相続人の財産(預貯金、不動産、株式など)で、相続により取得した場合は、各機関に名義変更の届け出をします。
例として、以下のケースを考えます。
遺産分割協議後に相続財産としてA銀行の預貯金3000万円を妻・長男・次男の3人で均等取得する
現物分割のケースでは、預貯金3000万円の相続人である3人の誰かしらがA銀行へ行き、被相続人・相続人全員の戸籍謄本・印鑑登録証明書、遺産分割協議書や遺言、銀行への依頼書などの必要書類を用意する必要があります。
遠出できない容態であったり、遠方に住んでいるために銀行の営業時間である平日昼間に来られない などの場合もあります。
また、A銀行だけでなく複数の預貯金がある場合には、同様の手続きが各銀行で必要であり、必要書類の記入・収集、名義変更手続きの依頼などのために親族が同時に集まる回数が増え、遺産の取得がとても煩雑になる可能性があります。
しかし、代償分割のケースでは、預貯金3000万円の相続人の代表者がA銀行へ行き、被相続人・相続人全員の戸籍謄本・印鑑登録証明書、遺産分割協議書や遺言、銀行への依頼書などの必要書類を用意していくだけで名義変更ができる、というようなことができます。
このような簡略した手続きにするためには、遺産分割協議書に
「長男がA銀行の全ての預貯金を相続し、長男がその相続の代償として母、次男に1000万円ずつ支払う」
という代償分割を行う旨が記入されている必要があります。
これにより、A銀行の全ての預貯金は長男が取得するため、銀行の依頼書への署名捺印や名義変更手続きにより銀行へ行く必要のある人は長男だけになります。
複数の預貯金がある場合には、
「A銀行の預貯金」 → 「長男が全ての預貯金」とすればいいですし、
不動産や株式などを換価分割する場合にも、
「A銀行の預貯金」 → 「不動産」、「株式」とすれば換価手続きに必要なのは長男だけになります。
さらに手続きを簡略するのであれば、
「長男が全ての財産を相続し、長男がその相続の代償として母、次男に〇〇万円ずつ支払う」
とすれば、母・次男は必要書類を揃えるだけですべて長男に手続きを任せることができる、なんてことも可能になります。
親族が一同に揃うことが難しいケースは多くありますので、相続をスムーズに進める手段の一つとしては非常に有効だと考えます。
代償分割を勧める理由として税金面の負担を減らす役割もあります。
これについては、 遺産分割の流れと代償分割を勧める理由 ② で記述しますのでご覧ください。
【まとめ】
相続手続きというのは、とても時間がかかるものです。
被相続人が亡くなられた後、たくさんのやるべきことがでてきますが実務上は案外繋がっていることが多いです。
葬儀後でなければなかなか遺産の話になりませんし、遺産分割で使う資料は申告や登記でも使うことがあります。
ご遺族の皆さまのお気持ちが少し落ち着きました頃でよろしいので、早め早めに準備して、相続を難しくしないようにすることがよいでしょう。
遺産分割に関しては、二つの観点が重要であると考えます。
一つは、実際にどの財産をどの予定相続人に引き渡したいかを考えることです。
これは、予定被相続人と予定相続人が話し合い考えることであると思います。
もう一つは、相続税・贈与税などの税金がどれだけかかり、どのように財産を動かしたり分けたりすればできるだけ多くの財産を予定相続人に残すことができるのか、税金などの費用面より財産処分としての分割方法を考えることです。
こちらは、予定被相続人と予定相続人の意思に沿ったうえで私たち会計事務所・税理士などの専門家を含めて話し合い考えることが望ましいと思います。
〈こちらの記事は、2018/8/31更新記事を参考に作成しています。〉