相続と贈与の違い ~生前贈与と死因贈与と遺贈~

 贈与は、相続対策と切っても切れない関係です。

 予定被相続人が将来の税負担を軽減させるため生前に相続対策として行うものとして、まず、財産の贈与が挙げられます。

 また、引き渡す対象となる財産が不動産である場合に、その不動産を引き渡す時点の価値を求める(評価する)必要があるのは相続と贈与のみであり、税額計算の手続きについても共通しています。

 税率や特例等による軽減措置の面では、相続による財産取得は贈与よりも有利でありますが、いずれ発生するであろう相続を見越して計画的に行う贈与は、相続による財産取得よりも有利になることもあります。

 過去の財産取得が実は贈与に当たっており税金を払わなければならなかった、過去に贈与してもらっておけば非課税限度枠に収まっており相続発生時に税金を払わなくてもよかった、などはよく起こりうることです。

 財産をできるだけ自由に譲り渡せるよう、より多くの税金が発生しないように、相続・贈与について理解を深めていただけたらと思います。

相続税に強い税理士なら、長野県松本市の小沢税務会計事務所

【相続と贈与の比較】

・相続と贈与の関係性と該当条件

 1 相続税のしくみ

 相続税は、相続や遺贈によって取得した財産及び相続時精算課税の適用を受けて贈与により取得した財産の価額の合計額(債務などの金額を控除し、相続開始前3年以内の贈与財産の価額を加算します。)が基礎控除額を超える場合にその超える部分(課税遺産総額)に対して、課税されます。
 この場合、相続税の申告及び納税が必要となり、その期限は、被相続人の死亡したことを知った日の翌日から10か月以内です。
 (注) 被相続人とは、死亡した人のことをいいます。

 2 基礎控除額と正味の遺産額

 正味の遺産額が基礎控除額を超える場合は相続税がかかりますので、相続税の申告及び納税が必要です。 正味の遺産額とは、遺産総額と相続時精算課税の適用を受ける贈与財産の合計から、非課税財産、葬式費用及び債務を控除し、相続開始前3年以内の贈与財産を加えたものになります。

 3 相続税の納税義務者と課税財産

 相続税がかかる人及び相続税の課税される財産の範囲は、次のようになっています。
 (1) 相続や遺贈で財産を取得した人で、財産をもらった時に日本国内に住所を有している人(その人が一時居住者である場合には、被相続人が一時居住被相続人又は非居住被相続人である場合を除きます。) = 取得したすべての財産 

 (省略・補足)

国税庁 相続税がかかる場合 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4102.htm(2020年10月23日)

 

 贈与税は、個人から財産をもらったときにかかる税金です。
 会社など法人から財産をもらったときは贈与税はかかりませんが、所得税がかかります。
 また、自分が保険料を負担していない生命保険金を受け取った場合、あるいは債務の免除などにより利益を受けた場合などは、贈与を受けたとみなされて贈与税がかかります。
 ただし、死亡した人が自分を被保険者として保険料を負担していた生命保険金を受け取った場合は、贈与税でなく相続税の対象となります。
 贈与税の課税方法には、「暦年課税」と「相続時精算課税」の2つがあり、一定の要件に該当する場合に「相続時精算課税」を選択することができます。

 1 暦年課税

 贈与税は、一人の人が1月1日から12月31日までの1年間にもらった財産の合計額から基礎控除額の110万円を差し引いた残りの額に対してかかります。したがって、1年間にもらった財産の合計額が110万円以下なら贈与税はかかりません(この場合、贈与税の申告は不要です。)。

 2 相続時精算課税

 「相続時精算課税」を選択した贈与者ごとにその年の1月1日から12月31日までの1年間に贈与を受けた財産の価額の合計額から2,500万円の特別控除額を控除した残額に対して贈与税がかかります。
 なお、この特別控除額は贈与税の期限内申告書を提出する場合のみ控除することができます。 また、前年以前にこの特別控除の適用を受けた金額がある場合には、2,500万円からその金額を控除した残額がその年の特別控除限度額となります。

 3 申告と納税
 贈与税がかかる場合及び相続時精算課税を適用する場合には、財産をもらった人が申告と納税をする必要があります。申告と納税は、財産をもらった年の翌年2月1日から3月15日の間に行ってください。
 なお、相続時精算課税を適用する場合には、納税額がないときであっても財産をもらった年の翌年2月1日から3月15日の間に申告する必要があります。 税金は金銭で一度に納めるのが原則ですが、贈与税については、特別な納税方法として延納制度があります。
 延納は何年かに分けて納めるものです。
 この延納を希望する方は、申告書の提出期限までに税務署に申請書などを提出して許可を受ける必要があります。

国税庁 贈与税がかかる場合 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/zoyo/4402.htm(2020年10月23日)

 

 相続と贈与は、いずれも財産を無償で譲り受けることです。

 また、よく間違えてしまう点は、財産を譲り受けたことにより発生する相続税および贈与税、登記料などの諸費用は財産を引き渡した人ではなく財産を譲り受けた人に対して発生するものです。

 

 相続と贈与を対比した際の一番大きな特徴は、

  相続 = 亡くなられた人から財産を自動的に譲り受けること

  贈与 = 生きている人がお互いに財産を譲る意思・貰う意思により財産を譲り受けること

 となります。

 

 相続と贈与の違いは、財産を引き渡す人が亡くなられた人か生きている人か、

 その財産を自動的に譲り受けたのか契約等お互いの了承の上で譲り受けたのか、

 などの判断により相続とするのか贈与とするのか、またはどちらも成り立たないのか決定されます。

 

 相続の基本知識として、財産を引き渡す人(被相続人)が亡くなられた際には、財産を譲り受ける人(法定相続人)へ財産が自動的に引き継がれます。

 被相続人とは、亡くなられた人を指します。

 一方で、法定相続人は被相続人により法律で定められています。

 つまり、自動的に財産を譲り受けることができる人は、あらかじめ決まっているということです。

 相続については、 相続税の基本情報 ~相続方法と申告状況~ を併せてご覧ください。

 

 財産を引き渡す・譲り受ける行為が贈与ではなく相続にしたいケースでの一番の目的は相続税が贈与税よりも税率が低く、特例等による軽減措置があることで税負担を抑えることができることでしょう。

 後述しますが、財産を譲り受けた人が「財産を相続した」と考えていても、財産を引き渡す人が生きている人であれば贈与その他の行為になります。

 また、譲り受ける人が法律で定められた相続人でなければ、通常の相続とは異なることとなります。

 

 贈与の基本知識として、財産を引き渡す人(贈与者)が対象財産をあげますよという意思があり、財産を譲り受ける人(受贈者)が対象財産をもらいますよという意思があって、贈与が成立します。

 贈与者および受贈者は、自由に決定することができます。

 贈与の成立は、贈与する・される意思がある、判断ができる、財産を自由に使うことができるなどの要件があります。

 そのため、口頭による贈与でも認定されるケースもあれば、契約書を書いても否認されるケースがありますので注意が必要です。

 

 財産を引き渡す・譲り受ける行為が相続ではなく贈与にしたいケースでの一番の目的は、暦年贈与などの贈与税の非課税枠を利用して、相続対策や早期の財産移転を行うことでしょう。

 後述しますが、財産を譲り受けた人が「財産を贈与により取得した」と考えていても、贈与者が亡くなられた後に効力が発生するものは一部相続のような扱いになることもあります。

 また、贈与・受贈の意思がなければ贈与認定はされず、財産は贈与者固有のものとされ相続財産に含まれてしまう、など贈与自体がなかったこととされることもあります。

 

 実務的な話とは少し離れますが、相続と贈与の関係として、

 相続税は、相続が発生した際に相続財産を取得した人が納める必要があります。

 相続税が課される理由として、富の再分配と所得税の補完的性質があるとされており、相続人に財産を譲り渡す際に課税しましょうということが相続税法上で定められています。

 実は、贈与税もこの相続税法で定められています。

 相続税法上にある贈与税の立ち位置とは、相続税がかけられない財産に課税して、相続税を免れないようにするという目的があります。

相続税に強い税理士なら、長野県松本市の小沢税務会計事務所

【死因贈与と遺贈】

・相続と生前贈与と死因贈与と遺贈の関係について

 相続・贈与に類似するものとして死因贈与と遺贈があります。

 財産を引き渡す・譲り受ける行為がいずれかに該当するかにより、税法上・民法上の規定が変わり、課税対象となる場合は税額も変わる場合もあります。

 

 死因贈与と遺贈は、以下のケースを指します。

  死因贈与 = 贈与契約によって贈与者が亡くなられた際に、受贈者へ財産を引き渡す贈与

  遺贈 = 対象財産所有者が亡くなられた際に、遺言により特定の人へ財産を引き渡すこと

 

 死因贈与と遺贈はいずれも、亡くなられた人が特定の人へ財産を引き渡す行為です。

 2つの違いとして死因贈与は、「A(贈与者)が亡くなった際にB(受贈者)に○○を譲る。」などの贈与契約にA・Bお互いの契約・同意が必要になります。

 一方で、遺贈は、亡くなられた人(遺贈者)が遺言により一方的に法定相続人以外の人(受遺者)へ財産を引き渡すことができます。

 

 相続との違いについては、相続・死因贈与・遺贈いずれも死後に効力が生じますが、相続は法定相続人に自動的に発生する点で異なります。

 また、贈与との違いについては、贈与・死因贈与・遺贈いずれも特定の人へ財産を引き渡す行為ですが、贈与は生きている人同士が行う点で異なります。

 

 

 死因贈与は、死後に財産移動が発生する贈与契約であるため、贈与とほぼ同じ性格を持ちます。

 負担付死因贈与という介護などを行ってもらう代わりに死因贈与を行うような方法もあります。

 死因贈与契約は、贈与同様にどなたに対してもできますが、受贈者が法定相続人であれば相続のほうが登記料などの諸費用についてメリットがあるため、通常は法定相続人以外を受贈者にすることが多いでしょう。

 また、口頭による贈与もできますが、相続人との兼ね合いもあるため契約書による契約が一般的でしょう。

 

 遺贈は、遺言による法定相続人以外の人への財産移動です。

 相続における遺言と同様であるため、遺言内容を死後まで隠すことができる一方で、遺言作成のルールに則って作られた正式な遺言でなければ無効になってしまうこともあります。

 包括遺贈という「総財産の〇分の〇を譲る。」のような特定の財産ではなく、割合等で財産を引き渡すこともできます。

 包括相続の場合は、正の財産だけでなく借金などの負の財産も譲り受けることになってしまいますので注意が必要です。

 ただし、受遺者は相続同様に放棄することもできます。

 

 ・税金その他費用についての違い

 ここまで相続・生前贈与・死因贈与・遺贈について触れてきましたが、財産移転がどの行為にあたるかによりどれくらいの税金・費用がかかるが変わります。

 引き継いだ財産に適用される税金は、以下のように分類されます。

 相続税 = 相続・死因贈与・遺贈

 贈与税 = 生前贈与

 

 相続税・贈与税は、以下のようになっています。 

 相続税

(法定相続分に応ずる取得金額) (税率) (控除額)
 1,000万円以下  10% 0万円
 3,000万円以下  15% 50万円
 5,000万円以下  20% 200万円
 1億円以下  30% 700万円
 2億円以下  40% 1,700万円
 3億円以下  45% 2,700万円
 6億円以下  50% 4,200万円
 6億円超  55% 7,200万円

 贈与税(一般税率)

(基礎控除後の課税価格) (税率) (控除額)
 200万円以下  10% 0万円 
 300万円以下  15% 10万円
 400万円以下  20% 25万円
 600万円以下  30% 65万円
 1000万円以下  40% 125万円
 1500万円以下  45% 175万円
 3000万円以下  50% 250万円
 3000万円超  55% 400万円

 贈与税(特例税率)

(基礎控除後の課税価格) (税率) (控除額)
 200万円以下  10% 0万円
 400万円以下  15% 10万円
 600万円以下  20% 30万円
 1000万円以下  30% 90万円
 1500万円以下  40% 190万円
 3000万円以下  45% 265万円
 4500万円以下  50% 415万円
 4500万円超  55% 640万円

 ※ 特例税率は、直系尊属(祖父母や父母など)から、その年の1月1日において20歳以上の者(子・孫など)への贈与税の計算に使用します。

国税庁 相続税の税率 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4155.htm(2020年10月23日)
国税庁 贈与税の計算と税率(暦年課税)https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/zoyo/4408.htm(2020年10月23日)

 相続税のほうが、贈与税よりも税額が低いことが分かります。

 さらに、相続税の計算では特例が多いため贈与より課税価格が低くなることが多いです。

 ただし、相続・死因贈与・遺贈は、財産を譲り受ける人が一親等及び配偶者以外の人である場合、相続税が2割加算されます。

 死因贈与・遺贈については、一親等及び配偶者以外の人が対象となることが多いため、通常の相続よりも税額が高くなることが多いと思われます。

 引き継いだ財産にかかる税金では、

 相続 >> 死因贈与・遺贈 >> 生前贈与

 の順で有利であると言えるでしょう。

 登記料などの諸費用についても、その金額が変わります。

 不動産取得税と登録免許税は、以下のようになっています。

 不動産取得税 

 課税標準額×税率 で算出されます

 課税標準

 土地や家屋を売買、交換、贈与などにより取得したとき
 ⇒ 原則として市町村の固定資産課税台帳に登録されている評価額
(*)平成33年3月31日までに取得した宅地及び宅地比準土地の場合は評価額の2分の1です。

 家屋を建築(新築、増築、改築)により取得したとき
 ⇒ 固定資産評価基準により算出した評価額

 税率

 土地 3% 
 住宅 3%
 住宅以外 4%

 ※ 相続により不動産を取得した場合は、非課税

 登録免許税

 土地・建物の所有権の移転登記
 課税標準額×税率 で算出されます

 課税標準

 課税標準となる「不動産の価額」は、市町村役場で管理している固定資産課税台帳の価格がある場合は、その価格です。市町村役場で証明書を発行しています。

 税率
 相続 0.4%
 贈与 2%

長野県 不動産取得税について https://www.pref.nagano.lg.jp/zeimu/kurashi/kenze/aramashi/aramashi/fudosan/index.html(2020年10月23日)
国税庁 登録免許税の税額表 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/inshi/7191.htm(2020年10月23日)

 相続による不動産の取得は、贈与による取得より税額が低いことが分かります。

 注意しなければならないこととして、死因贈与・遺贈は、財産の取得について相続したものとして計算するものの、相続ではなくあくまで贈与であるため、登記料などの諸費用については贈与されたものとして計算されます。

 不動産の取得による登記料などの諸費用では、

 相続 >> 生前贈与・死因贈与・遺贈 

 の順で有利であると言えるでしょう。

【まとめ】

 相続・贈与はとても多くの案件があります。

 相続税の申告業務に伴って遺贈はよく目にしますが、死因贈与についてはあまり出会うことがありません。

 例えば、遺贈が起こるケースでは、遺言により孫や親などの法定相続人以外へ財産を引き渡すということは考え易いでしょう。

 死因贈与が起こるケースとしては、遺言ではなく契約書などにより法定相続人以外へ財産を引き渡すということが考えられます。

 理想的な財産移転は、やはり好きな時期に好きなだけ引き渡すことができる贈与が最も理想的ではありますが、税法上タダではできないということです。

 財産の取得に関しても、不動産の取得に関しても、相続により譲り受けることと贈与により譲り受けることでは税金に非常に大きな差がありますので、早期に計画的に対策を立てていくことがよいでしょう。

 

〈こちらの記事は、2018/5/7更新記事を参考に作成しています。〉