令和3年度 税制改正大綱が発表されました

令和3年度 改正点概要

 令和2年12月10日に令和3年度 税制改正大綱が発表されました。

 改正点概要は、以下のようになっております。

 

個人所得課税

○ 住宅ローン控除の特例の延長等
・控除期間 13 年の特例の適用期限を延長し、令和4年末までの入居者を対象とするとともに、この延長した部分に限り、合計所得金額 1,000 万円以下の者について面積要件を緩和する(50 ㎡以上→40 ㎡以上)。
・この措置による個人住民税の減収額は、全額国費で補塡する。

○ セルフメディケーション税制の見直し
・対象をより効果的なものに重点化し、手続を簡素化した上で5年延長する。

○ 国や地方自治体の実施する子育てに係る助成等の非課税措置
・国や自治体からの子育てに係る助成(ベビーシッター・認可外保育施設の利用料等)について、子育て支援の観点から、非課税とする措置を講ずる。

○ 退職所得課税の適正化
・勤続年数5年以下の法人役員等以外の退職金についても、雇用の流動化等に配慮し、退職所得控除額を控除した残額のうち 300 万円を超える部分について2分の1課税を適用しない。

資産課税

○ 国際金融都市に向けた税制上の措置
・就労等のために日本に居住する外国人が死亡した際、その居住期間にかかわらず、外国に居住する家族等が相続により取得する国外財産を相続税の課税対象としない。

○ 住宅取得等資金に係る贈与税の非課税措置の拡充
・非課税枠(1,500 万円/令和3年4月以降縮小)を令和3年末まで据え置く(面積要件について、住宅ローン控除と同様の措置を講ずる)。

○ 教育資金、結婚・子育て資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置の見直し
・節税的な利用を防止する観点から、受贈者が贈与者の孫等である場合の贈与者死亡時の残高に係る相続税額への2割加算の適用等、所要の見直しを行った上、適用期限を2年延長する。

○ 土地に係る固定資産税等の負担調整措置
・宅地等及び農地の負担調整措置について、令和3年度から令和5年度までの間、現行の負担調整措置の仕組みを継続する。
・その上で、令和3年度に限り、負担調整措置等により税額が増加する土地について、前年度の税額に据え置く特別な措置を講ずる。

法人課税

○ 産業競争力強化に係る措置
-デジタルトランスフォーメーション(DX)投資促進税制の創設
・「つながる」デジタル環境の構築(クラウド化等)による事業変革を行う場合に、税額控除(5%・3%)又は特別償却(30%)ができる措置を創設する。
-カーボンニュートラルに向けた投資促進税制の創設
・カーボンニュートラルに向け、脱炭素化効果の高い先進的な投資(化合物パワー半導体等の生産設備への投資、生産プロセスの脱炭素化を進める投資)について、税額控除(10%・5%)又は特別償却(50%)ができる措置を創設する。
-活発な研究開発を維持するための研究開発税制の見直し
・厳しい経営環境にあっても研究開発投資を増加させる企業の税額控除の上限を引き上げる(現行:25%→30%)とともに、インセンティブを高めるための控除率カーブの見直し及び控除率の下限の引下げ(現行:6%→2%)を行う。
・クラウド環境で提供するソフトウェアなどの試験研究に要した費用について、研究開発税制の対象とするほか、所要の見直しを行う。
-コロナ禍を踏まえた賃上げ及び投資の促進に係る税制の見直し
・雇用環境の悪化に対応するため、新規雇用拡大・教育訓練支援に着目した形に見直しを行う。
-繰越欠損金の控除上限の特例
・コロナ禍の厳しい経営環境の中、赤字であっても果敢に前向きな投資(※)を行う企業に対し、その投資額の範囲内で、最大5年間、繰越欠損金の控除限度額を最大 100%(現行:所得の金額の 50%)とする特例を創設する。
(※)カーボンニュートラル、DX、事業再構築・再編等

○ 株式対価M&Aを促進するための措置の創設
・自社株式を対価として、対象会社株主から対象会社株式を取得するM&Aについて、対象会社株主の譲渡損益に対する課税を繰り延べる措置を講ずる。

○ 国際金融都市に向けた税制上の措置
・投資運用業を主業とする非上場の非同族会社等の役員に対し支払われる業績連動給与について、一定の要件の下、損金算入を可能とする。

○ 中小企業の支援
-中小企業向け投資促進税制等の延長
・中小企業者等の法人税の軽減税率の特例及び中小企業投資促進税制等を延長するとともに、商業・サービス業・農林水産業活性化税制の対象業種を中小企業投資促進税制に統合する。
-所得拡大促進税制の見直し
・雇用者全体の給与等支給額に着目した要件に見直す。
-中小企業の経営資源の集約化に資する税制の創設
・M&Aを実施する中小企業者の投資リスクに備える準備金制度を創設するとともに、前向きな投資を推進するための措置等を講ずる。

消費課税
○ 車体課税
・自動車重量税のエコカー減税及び自動車税・軽自動車税の環境性能割について、新たな 2030 年度燃費基準の下での区分の見直し等、所要の措置を講ずる。
・環境性能割の臨時的軽減について、適用期限を9か月延長し、令和3年末までの取得を対象とする。この措置による減収については、全額国費で補塡する。
・グリーン化特例(軽課)は、重点化等を行った上で2年間延長する。

○ 金密輸に対応するための消費税の仕入税額控除制度の見直し
・金又は白金の地金の課税仕入れに係る仕入税額控除の要件として保存することとされている本人確認書類のうち、一定の書類をその対象から除外する。

国際課税

○ 国際金融都市に向けた税制上の措置
・リミテッド・パートナーシップの投資家である外国組合員に対する課税の特例について、持分割合要件等の見直しを行う。

東日本大震災からの復興支援のための税制

○ 復興支援のための税制上の措置
・福島国際研究産業都市区域の 15 市町村を対象とした福島イノベーション・コースト構想の推進に係る特例及び特定風評被害による経営への影響に対処するための特定事業活動に係る特例の創設等を行う。

納税環境整備

○ 税務関係書類における押印義務の見直し
・税務署長等に提出する国税関係書類において、実印・印鑑証明書を求めている手続等を除き、押印義務を廃止する。
(※)地方公共団体の長に提出する地方税関係書類についても同様とする。

○ 電子帳簿等保存制度の見直し等
・経理の電子化による生産性の向上、テレワークの推進、クラウド会計ソフト等の活用による記帳水準の向上に資するため、帳簿書類を電子的に保存する際の手続を抜本的に見直す。また、スキャナ保存制度については、ペーパーレス化を一層促進する観点から、手続き・要件を大幅に緩和するとともに、電子データの改ざん抑止のための措置を講ずる。

○ 地方税共通納税システムの対象税目の拡大
・地方税共通納税システムの対象税目について、固定資産税、都市計画税、自動車税種別割及び軽自動車税種別割を追加し、eLTAX(地方税のオンライン手続のためのシステム)を通じた電子納付を可能とする。

○ 個人住民税の特別徴収税額通知の電子化
・特別徴収税額通知(納税義務者用)について、特別徴収義務者が求めた場合、市町村は、eLTAX 及び特別徴収義務者を経由して電子的に送付するものとする。

○ 国際的徴収回避行為への対応
・徴収共助の要請が可能な国に財産を所有する滞納者が行う徴収回避行為に適切に対応するため、滞納処分免脱罪及び第二次納税義務の適用対象を見直す。

関税

○ 暫定税率等の適用期限の延長等
・令和2年度末に適用期限の到来する暫定税率(416 品目)の適用期限を1年延長する等の措置を講ずる。

○ 個別品目の関税率の見直し
・ポリ塩化ビニル製使い捨て手袋について、暫定税率を無税とする等の措置を講ずる。

総務省「令和3年度税制改正の大綱の概要(令和2年12月21日 閣議決定) https://www.mof.go.jp/tax_policy/tax_reform/outline/fy2019/31taikou_gaiyou.pdf(2020年12月23日)

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【令和3年度 税制改正大綱のポイント】

 今回の改正はコロナ影響の負担軽減措置が中心となっており、相続等に関しては目立った改正点はないという印象です。

 ここでは、令和3年度税制改正大綱の相続に係る資産課税について取り上げます。 

教育資金、結婚・子育て資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置の見直し

 教育資金・結婚・子育てに関する資金を贈与する際に申告等を行うことで、一定額まで非課税で贈与することができる制度です。

 教育資金の一括贈与非課税措置については、贈与者(祖父母、親など)が亡くなり相続が発生した際に贈与した教育資金の残額がある場合は、その全額が相続税の対象となります。

 また、受贈者が孫や曾孫である場合は相続税額が2割加算されるようになります。

 従来は、相続が発生した際には3年以内に行った教育資金贈与の残額のみ相続税の対象であり、また被相続人の一親等の血族及び配偶者以外の相続人の2割加算の要件はなかったため、課税対象の拡大となる改正でしょう。

 ただし、教育資金は必要な分だけ随時贈与することで制度を適用せず非課税で贈与することができるのであまり関係ないことだと考えます。

 詳しくは、 贈与事実の認定について ~暦年課税・教育資金などの非課税財産~ をご覧ください。

 

 同様に、結婚・子育て資金の一括贈与非課税措置の見直しについても、受贈者が孫や曾孫である場合は相続税額が2割加算されるようになるため、課税対象の拡大となる改正でしょう。

 

・住宅資金贈与の非課税措置、住宅ローン控除の延長・拡充

 住宅資金贈与の非課税措置は、直系尊属(父母や祖父母)からの資金贈与により自宅(又はその土地)の新築、取得又は増改築等をした際に、一定額まで非課税で贈与することができる制度です。

 現行の非課税限度額が令和3年末まで延長されます。

 また、合計所得金額が1,000万円以下の場合、住宅資金贈与の非課税措置を受けるための床面積要件が40㎡以上となります。

 従来は、非課税限度額が段階的に下げられる予定であり、床面積が50㎡以上であることが要件であったため、控除額・控除対象者の拡充となる改正でしょう。

 

 同様に、現行の住宅ローン控除が令和4年末までの入居者を対象に延長されます。

 また、合計所得金額が1,000万円以下の場合、住宅ローン控除を受けるための床面積要件が40㎡以上となります。

 従来は、床面積が50㎡以上であることが原則として要件であったため、控除対象者の拡充となる改正でしょう。

 

【まとめ】

 令和3年度税制改正大綱では従来と大きく変わるところはないですが、昨今のコロナ影響により減税となる項目が多くみられるため対象者にとっては喜ばしいことです。

 確定申告書等の押印の廃止やクラウド化等の投資促進税制など、ポストコロナに向けた経済構造の転換・好循環やデータ化による業務の効率化を進められています。

  

 資産課税については課税強化となる部分もありますが該当されるケースはかなり少ないと考えます。

 一方で、宅資金贈与の非課税措置・住宅ローン控除については活用されるケースが多いため、延長・拡充はプラスになるでしょう。