相続・贈与における土地の評価について ~路線価と倍率~

 土地や建物などの不動産を売り渡す・譲渡する際には、実際の取引価格や時価を基準に利益が出れば税金が発生することになります。

 一方で、不動産を相続・無償で贈与する際には、財産評価における基本通達により引き渡し時点の価値を自力算出することとなります。

 不動産の中でも、土地については、路線価方式又は倍率方式により 価値を算出する = 評価する ことが定められています。

 対象地となる土地の属する地区によりどちらかの方式で評価することとなりますので、どのような評価ができることになるのか確認してください。

 

  相続・贈与における土地の評価について ~地目区分~ も併せてご覧ください。

【土地の評価について】

・土地評価の基本

 国税局タックスアンサーでは、以下のように解説されています。

 

 相続税や贈与税を計算するときに、相続や贈与などにより取得した土地や家屋を評価する必要があります。

 ⑴ 土地
 土地は、原則として宅地、田、畑、山林などの地目ごとに評価します。 土地の評価方法には、路線価方式と倍率方式があります。

 イ 路線価方式
 路線価方式は、路線価が定められている地域の評価方法です。路線価とは、路線(道路)に面する標準的な宅地の1平方メートル当たりの価額のことで、千円単位で表示しています。
 路線価方式における土地の価額は、路線価をその土地の形状等に応じた奥行価格補正率などの各種補正率で補正した後に、その土地の面積を乗じて計算します。
 ロ 倍率方式
 倍率方式は、路線価が定められていない地域の評価方法です。倍率方式における土地の価額は、その土地の固定資産税評価額(都税事務所、市区役所又は町村役場で確認してください。)に一定の倍率を乗じて計算します。

国税庁 土地家屋の評価 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4602.htm(2020年4月6日)

 

【路線価方式による土地の評価】

・路線価とは

 路線価とは、道路に面する宅地の1㎡あたりの価格を指します。

 路線価方式は、主に、相続税・贈与税を計算する際に使われる土地の価値 =評価額 を決定するためにとられる方法です。

 路線価により評価できるのは、土地だけであり、その他不動産は評価することができません。

 

 この金額は、一般的に、1月1日の適正価格として国税局が公表するものであり、毎年7月あたりに見直されます。

 つまり、公表以前に相続などが発生した場合は、税金計算に使われる適正な土地の評価は7月以降にならないと算出できないことになります。

 相続税の場合は、被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10ヶ月以内に被相続人の住所地を所轄する税務署へ申告書の提出と納付をする必要があるため、評価に使用する路線価には注意が必要です。

 しかし、路線価に変動がない地域も多くあるため、評価額は変わらないことが多いようです。

 宅地を例に挙げると、路線価だけの評価では、実際の時価に類似するものである実勢価格や公示地価の8割程度の金額であるとされています。

 

 全国の路線価は こちら をご覧ください。(令和元年分)

 松本市の路線価は こちら をご覧ください。(令和元年分)

国税庁 財産評価基準書 https://www.rosenka.nta.go.jp/index.htm (2020年4月6日)

 

 

 当事務所が面している道路には、「46 E」が記載されています。

 1㎡あたり46,000円ということになりますので、100坪(1坪=3.3㎡)の土地だとすると、各種補正等は除いた場合の単純な計算で、約1520万円が相続税評価額となります。

 

 実際には路線価に面積を乗じるだけでできることは少なく、路線価方式による土地の評価は、財産評価基本通達によって評価方法が事細かく決められています。

 土地の評価において共通して言えることは、利便性の高い土地は評価額がより高くなり、利便性の低い土地は評価額がより低くなります。

 例として宅地では、複数の道路に面している土地は利便性の高さから評価額は高くなり、一辺にしか道路に面していない奥長の土地は利便性が低いことから評価額は低くなります。

 このような対象地の特徴を土地評価に反映するため 対象地の路線価に、土地の特徴に応じた各種補正率などを乗じることで、適当な路線価を算出することができます。

 

 どのような土地が補正対象になるかは、以下のものがあります。

 代表的な事項を計算上の順に挙げておりますが、当記事では、詳しい定義・数値等は省略します。

 詳しくは こちら をご覧ください。(平成30年分以降用)

国税庁 土地及び土地の上に存する権利の評価明細書(平成31年1月分以降用)https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/hyoka/annai/pdf/1470-5-5.pdf

 

1.奥行価格補正

 正面路線からの奥行距離が一定より長い・短い場合は、減額されます。

 複数の道路に面している土地についても、各路線ごとに減額されます。

2.路線影響加算

 複数の道路に面している・裏側に道がある・角地である場合などは、加算されます。

3.間口狭小補正

 間口距離が一定より狭い場合は、減額されます。

4.奥行長大補正

 間口に対して奥行距離が長い場合は、減額されます。

5.不整形地補正

 道路に対して垂直となる正方形又は長方形ではない土地の場合、減額されます。

 対象地の形状と対象地をすべて囲むような整形地を重ね合わせてできる不整形な部分(かげ地)の割合に応じて減額されます。

6.規模格差補正

 地積規模の大きな宅地の場合は、開発行為によりロスがでることがあるため、減額されます。

 詳しくは、 地積規模の大きな宅地の評価 ~広大地評価との比較~ をご覧ください。

7.無道路地補正

 道路に面していない土地の場合は、減額されます。

8.がけ地補正

 対象地に崖がある場合、その面積比率に応じて減額されます。 

 ただし、がけ地とは30°以上の傾斜地とされていますので相当程度の土地である必要があります。

9.容積率が異なる場合の補正

 ひとつの土地が容積率が異なる地域にわたっている場合は、容積率の低い部分による影響を土地全体の評価に織り込むため、面積に応じて減額します。

10.私道による補正

 宅地の一部が私道になっている場合は、減額します。

 誰でも通れるようになっている私道については、評価額をゼロとします。

11.セットバックによる補正

 セットバックとは、道路にするため建物や構築物を建てられない部分をいいます。

 セットバックが必要とされる部分については、減額します。

12.貸地・借地による補正

 他人に貸している土地や、借りている土地(借地権)などは、一般的な土地に比べて自由に使えないため、減額します。

13.  利用価値が著しく低下している宅地の評価

 墓地の近くや高低差があること、凸凹があること、騒音がある、など価値が下がるような事象が認められる場合、減額します。

 ただし、周辺の住宅の利用状況と比較して、特別に事象が認められる場合に価値が下がっているとされます。

14.  宅地造成費による補正

 市街地農地などは、一般的な住宅等を建てられるようにするには整地する費用がかかるため、減額します。

 市街地農地とは、住宅を建てることができる地域に存する農地をいいます。

 宅地造成費として定められている費用には、整地・土盛・土留に関する工事があります。

 また、傾斜地の場合は、一律の宅地造成費が定められています。

 

 国が定めている路線価については、一般的な宅地としての価格が設定されているため、宅地・田・畑・山林・雑種地などの地目に応じた評価が必要になります。

 ほとんどの土地は評価減になると思われますので、適切な方法で評価し節税するのがよいでしょう。

【倍率方式による土地の評価】

・倍率方式とは

 倍率方式とは、路線価方式と同様に相続税・贈与税を計算する際に使われる土地の価値 =評価額 を決定するためにとられる方法です。

 倍率方式により評価できるのは、土地だけであり、その他不動産は評価することができません。

 

 倍率方式では、各自治体が決定した路線価をもとに決められる固定資産税評価額に定められた倍率を乗じた価格を土地の評価額とします。

 この方法は、倍率地区と呼ばれる国税局が路線価を公表していないような市街地以外の地域などで使われるよう定められています。

 

 厳密には、倍率地区においても路線価は存在し、国税局ではなく各自治体が決定した路線価をもとに、固定資産税評価額などで使用しています。

 固定資産税評価額は、1月1日に存する土地や家屋など固定資産に対して決定され、多くは3年に1回見直されます。

 固定資産税評価額は、土地の用途や特徴などおおよそすべての補正が含まれた金額で算出されています。

 この価額は、4月に固定資産の所有者に送付される固定資産税の課税明細書・各自治体で閲覧できる固定資産課税台帳・固定資産評価証明書により確認することができます。

 実際の時価に類似するものである実勢価格や公示地価の7割程度の金額であるとされるため、土地については、相続税評価の際は、固定資産税評価額に1.1倍を乗じた金額を使うことが多いです。

 また、路線価と違い課税標準となる金額をいつでも入手することができるため、評価自体もいつでも行えます。

 

 松本市の倍率は こちら をご覧ください。(令和1年分)

国税庁 財産評価基準書 https://www.rosenka.nta.go.jp/main_r01/kanto/nagano/ratios/html/c67103rf.htm (2020年4月6日)

 

 当事務所がある松本市笹部1丁目は、宅地が路線価、田・畑その他すべてが比準となっております。

 これは、宅地は倍率ではなく路線価を使用して評価しなさい、ということと、田・畑その他すべては宅地に比準して評価しなさいということになります。

 つまり、すべての土地を、路線価と各種補正により評価します。

 

 一方で、松本市会田などは、田・畑などの地目に応じて倍率が振り当てられています。

 つまり、この地域の土地は、固定資産税評価額に対して地目に応じた倍率を乗じることで評価します。

 前記しましたが、固定資産税評価額には、利便性の有無等による各種補正も含まれた価額になっていますので、基本的には倍率を乗じるだけで算出されます。

 

 松本市内にはありませんが、周比準・市比準といわれる倍率地区での評価もありますが、これは宅地に比準して評価することを求めています。

 ただし、倍率地区には国税局が公表する路線価は存在しないため、各自治体が決定する路線価に基づき、路線価方式で評価します。

 

 同様に、倍率地区にある雑種地などの場合は、乗じる倍率がないため各自治体の路線価により評価することになるので注意してください。

 また、倍率方式で使われる固定資産税評価額には、広大地などの規模補正は含まれていないため、倍率地区で地積規模の大きな宅地や広大地に該当する場合も、各自治体の路線価により評価する必要があります。

 詳しくは、 地積規模の大きな宅地の評価 ~広大地評価との比較~ をご覧ください。

 

 倍率方式が使える倍率地区の評価は、基本的には倍率を乗じるだけの簡単な評価方法ですが、逆を返えせば、評価額を減額する節税方法が少ないということです。

 ただし、雑種地のように路線価を使うことが適当なケースも、広大地のように適用することで節税となるケースもありますので、対象地がどのケースに当たるのか今一度確認するのがよいでしょう。

 

【まとめ】

 相続・贈与において、土地は総財産の中でも多くを占めるケースが多いです。

 その理由として、財産としての価値が高いこと、建物と違い価値が下がらないことがあります。

 相続・贈与時における土地に関する特例なども多いため、特に相続対策としてはどれくらいの財産があるのか把握しておくことが大切でしょう。

 

 土地の評価について、土地などの不動産はその金額の大きさにより、応用力を求められ、柔軟豊富な知識と実務経験を必要とします。

 土地の評価を含む財産評価は、相続・贈与時において最も税理士の腕による差が大きいといっても過言ではない分野だと思われます。

 金額が大きい分、節税効果やリスクも大きくなるため、適切な申告ができるよう、相続税・贈与税に強い会計事務所に依頼されることが良いと考えます。

 

〈こちらの記事は、2018/4/24更新記事を参考に作成しています。〉